珍しくラクサスがオレの前で眠っている。普段はオレの方が寝ているのに珍しい光景だった。
椅子の背もたれに背中を預け、腕を組みながら船をこいでいる。眉間に皺がよっているあたりがラクサスらしい。眠っている時ぐらいしかめ面を解いたらいいのに。

「ラクサス」

呼びかけても答えがない。本当に寝ているらしい。さんさんと太陽光だけが降り注いで、街からの喧騒が遠くで聞こえる。静かだな、と思った。
ラクサスは普段オレに対していつも威圧的だ。それでも、どきどき優しくなる。そのときに、ああ、オレ好きだな、と思い知らされるのがいつも悔しい。だから、普段は好きとは言ってやらない。なんだか負けた気がするから。

「ラクサス、好き、」

そっと近づいて、跪く。下から顔を覗くと、睫毛がきらきらと反射してるのがわかる。ああ、格好いいな、と素直な感想がでた。女に苦労しないと言うのがわかる気がする。
オレだって女に興味がないわけじゃない。それより先に、この目の前の男を好きになってしまったのが事実だ。
好き。腕をのろのろと伸ばしてラクサスの腕に組まれている指先に触れる。この指が、好きだ。この、腕が好きだ。ラクサスのすべてが。

「好きだ、ラクサス、好き、っだ」

ゆっくりと腰を上げる。目を覚まさせないように静かに立ち上がる。ラクサスは長身なのでオレがキスするとすれば、立ち上がらなくてはいけない。立ち上がるとラクサスの旋毛がみえる。あ、左巻きなんだ、とどうでも良いことを知れる。少し、嬉しくなった。
手をラクサスの肩に静かに置いて、少し腰を屈める。乱れる事のない正しい呼吸。キスを自分からすると思うとぐっと息が詰まって恥ずかしくなるが、深呼吸をする。
大丈夫。ラクサスは寝ているから、バレない。それでも緊張で心拍数があがっていく。
オレはラクサスの服を少しだけ握りしめ、ゆっくりと顔を近付けていく。こつり、と額と額を付け合わせるとよりラクサスの顔が近くに感じた。自分のような童顔ではなく男らしい顔つき。どんどんラクサスに墜ちていくのがありありと感じる。
悔しい。キスしてしまえ、そう唇を寄せたその時だった。

「よぉ」
「う、うわあぁああ?!」

パチリと金色の眼が開き、挨拶をされる。突然の展開に心臓が口から飛び出すぐらい驚いて言葉にならない叫びが口から漏れる。ラクサスはうるせぇ、と一言呟いてオレの腰を抱き寄せた。

「オレを襲うなんて溜まってんのかァ?ナツよォ」
「ちっ、ちげぇし!!!」

顔を赤くして言っても後の祭り。
結局オレはラクサスの言いなりになってしまうんだ。



好きすぎておかしくなりそう