愛しいの



ナツさんがかわいいのは全世界の共通項であり、全世界が知ってる事である。そんなかわいい俺のナツさんは今日もかわいいのはさておき、ムスッとふくれっ面で俺の目の前で座っている。
そう、今デートの真っ最中なのにナツさんは怒っている様なのである。
原因は勿論判らない。俺が何かしたなら分かるが、今日はまだ何もしていない。そう、まだ何も、だ。

「ナツさん、何怒ってんの」
「べっつに」

返事だけ返すとナツさんはまたムスッとしだす。眉をひそめて、そっぽをむいた。そういう所もすごくかわいいんだけど、なつさんの事だから気が付かずにやっているんだろうと思ったらこれまたかわいい。
要するに俺は、ナツさんが何をしててもかわいいのであった。目に入れても痛くないっていうのは恐らくこういうことを言うのだろうと、一人で納得する。

「俺、ナツさんの気に触るようなことした?」
「…」

沈黙するという事は原因は俺?
いやいや、今日は偶々マグノリアの近くまでクエストに行ったのでついでにマグノリアへよったら、偶々道を歩いていたナツさんに遭遇して、今日もかわいいですね何処いくんですか、と聞いたらナツさんは心底嫌そうな顔を俺に向けながらお前には関係ない、と連れない事を言って俺を置いていこうと歩き出す寸前にナツさんの細い腕を掴んで留まらせた。
立ち話も難だったので俺はそのままナツさんを引きずるようにして、近くの喫茶店に入った。
そんなわけで今に至るのだが目の前のナツさんの眉間の皺は更に深くなって、俺を睨みつけてる。そんなナツさんもかわいい。言っておくが俺はマゾヒストではない。いまだって睨んでいるナツさんを苛めたいぐらい。そのぐらいナツさんがかわいくて仕方がない。

「俺の事嫌い?」
「…そういうんじゃねェけど」
「けど?」

不機嫌を隠さず、俺の奢った炭酸水に入っているストローでかき混ぜている。どうやら、言い淀んでいるようだ。
そんな姿もかわいい。ナツさんは何してもかわいい。

「お前のこと知らねェし」
「違うギルドだしな」
「オレ、ルーシィんち行きたかったのに」
「誰それ」
「ハッピー迎えに行きたかったのに」
「ナツさんの猫?」

コクンと小さく頷く。あー、かわいい。本当にかわいい。ナツさんにかわいいって言ったら怒るのだろうか。怒った顔もかわいいのだろうか。
そんな事を考えながらナツさんを見つめる。ナツさんかわいい。

「ならさ、俺も一緒について行っていい?」

俺は微笑んでナツさんにお願いした。ナツさんはどうやら決めかねているようで、小さく唸り声を出している。どうやらナツさんが機嫌を損ねていた原因は自分の用事を遂行できていないこと、らしい。

「猫にも、そのルーシィってやつにも何もしねぇよ?だから、ね、ナツさん」

ナツさんの俯き顔を覗き込んで精一杯の優しい声を出す。目伏せてるナツさん可愛い。短くて薄い睫毛もかわいい。睫毛もうっすらとピンクでかわいい。ナツさんホントかわいい。
ナツさんは小さくため息をついた。俺の必死なお願いに折れてくれたのだろうか。

「じゃあ、行くぞ」
「あっ、」

そう一言だけ告げると、席から立ち上がりナツさんはさっさと店からでていってしまう。
俺は慌てて支払いをすませてナツさんの後を追う。
外に出ると意外にもナツさんが待っててくれたのが嬉しくて思わず真正面から抱きしめてしまい、ナツさんに殴られたのは言うまでもない。


可愛いのだから仕方ない