※衣装は原作基準ですが、アニメネタがあるので注意



打ち上げパーティのまさかのサプライズ、ナツが王に成りすますという驚きの珍事から数十分たち、辺りはすっかり最初と同じ喧騒を取り戻していた。ナツは貴賓席から戻ってくると、妖精の尻尾の面々から雷を食らった。やれ失礼すぎるだの、やれもっと考えて行動しろだの、やれマスターの髪の毛をこれ以上減らすなだの。最後の言葉は飛んだとばっちりであるが、大元の原因ばかり大抵ナツだったので、やはり雷が落ちるのは仕方なかった。
まーまー、と皆を宥めつつビュッフェ形式になっている料理を先ずは取りに行く。流石は国王主催。料理の豪華さが桁外れに違う。見るだけでも美しいのに、味も美味。そして、なくなれば直ぐに取り替えられ山のように盛られているのに、盛り付けはしっかりと飾られている。
流石の食い意地が張っているナツだが、これには感嘆の声しか出ない。そんな事より、お腹は空いているので、早速皿に料理を次々にとる。
肉、魚、野菜。果物はもちろん、副菜も。両手はもちろん腕に乗るだけの皿を並べて、盛っていく。ある意味これも一芸に近い。
バランスよくテーブルまで持ち運び全部を下ろしていく。
未来のローグを倒した後、何も口に運んでいないので、全てが美味しそうに見えた。

「食うぞ!」

フォークを持ち、持ってきたステーキの一切れに突き刺し、空けている口へと運ぶ。
じゅわっと、肉汁が広がりちょうどいい柔らかさ。流石高級食材を利用しているだけあって、普段食べている安物の肉とは全然違う味がした。
目を見開き、ひたすらもぐもぐと咀嚼する。舌の上で直ぐに消えてしまうのが、勿体ない。

「うめー!」

空腹は最高の調味料とは良く言ったものだ。美味しいものを食べると人は美味しいしか言えなくなる、をまさに体現している味だった。
ガツガツと一人で食を進めていく。今日はどんなに食べてもいい。最高の食事会だ。
ナツは口に物を頬張りながら辺りを見渡す。そう言えば、周りはどんな事をしているのだろうと気になった。
皆が正装をしており、女性陣がドレスで華を添えている。どのギルドの女性も美しく、ドレスのみでは甲乙つけがたい容姿。が、しかし美しくなっているのはドレスだけで、それ以外至っていつも通りだった。カナはひたすら酒をのみ、ジュビアは相変わらずグレイを追いかけている。エルザは酔っているのかカグラを抱きしめ胸に押しつけているし、ルーシィはレビィと楽しそうに会話していた。
男性陣もこれまた全く普段と変わらず、グレイはジュビアに追いかけられ、ラクサスは女性の群れに囲まれてそれをフリードが無理やり引き剥がしている。
これで終わったんだ。ナツは自然と笑顔になった。エクリプスが開き、ドラゴンが来襲し、街は壊滅し全戦力、全ギルドの力を持ってして戦った。試合に勝って、勝負に負けた。
ドラゴンに歯が立たなかったのも事実、自分はまだまだ弱い。強くなりたい。不安がないと言えばそれは嘘になる。それは身にしみて感じた。
しかし今はギルドの優勝と、ドラゴンを退けた事。祝杯を上げても良い時間。皆が楽しみ、そして、自分も楽しめばいいのだ。そう素直に思った。
それにしても料理が美味い。既に先程運んできた大半の料理を平らげ、次の料理を持ってこようと足を一歩踏み出すと、ナツの名を呼ぶ声が聞こえる。スティングの声だった。

「ナツさーん、どこー」
「おーい!」

ナツの身長は小さくも無ければ大きくもない。
平均身長の高い男性陣の比率が多いこの打ち上げには、少し小さくて見えにくいのかもしれないナツが、スティングの声に反応して食べている右手はそのまま、左手を天井に突き上げて、ぶんぶんと大きく振った。ナツからは声がするが姿は見えない。目が良くても、こうも人が多いと探し出すのはひと苦労だ。
人波をかき分けてスティングはナツが料理を食べているテーブルにたどり着く。スティングの手には空のグラスが二本と、栓の抜かれているシャンパンボトルが握られている。

「ナツさん、こんなところにいたんだ」
「皆が見れるから、いーだろ」
「まー、そっすねぇ」

ナツの居るところは皆と少し離れた場所にぽつねんと設置されているテーブルだった。静かな場所を選んだわけではなく、たまたまここが開いていたからだ。何より、この運んできた量の料理を置くのには、人にぶつからずに置けたのでうってつけだった。
スティングはグラスを差し出し、酒を次ぐ。とぽとぽと注がれるの淡いレモンイエローの炭酸水に目が向く。シュワシュワと炭酸の弾ける音が静かに聞こえてくる。
酒に強い訳ではないが飲むのは好きだし、こうやって誘われるのも嬉しい。こうしてギルド同士の交流が出来るのも大魔闘演舞ならではかもしれない。
注ぎ終わると、スティングは己のグラスに己で注ぐ。ナツは慌ててスティングの手に持っているボトルを取ろうとした。

「オレ、注ぐぞ」
「いいよナツさん、食べて?」
「でもよー」
「いいからいいから。なら、二杯目いい?」
「分かった」

ナツはこくん、と小さく頷く。スティングは小さく笑みをこぼしてグラスの脚を持って、ナツの持っているグラスに小さく傾けた。

「妖精の尻尾の優勝と、咬噛の剣のこれからに乾杯」
「かんぱーい」

フォークを一旦置いてグラスに口をつける。思いの外甘くて口当たりが軽く、一口だけにしようと思ったのが一気に半分飲んでしまった。
スティングも同じく半分ほど飲んでいる。既にスティングは飲んでいるのか、頬が仄かに赤くなっているのが見て取れた。どのぐらいの量を飲んでいるかは分からないが。

「これもうめぇな!」
「どの酒も美味しいですよ。何か欲しいのある?」
「先ずは、これ飲みてぇかな」
「了解」

ナツは、勧められたシャンパンに舌鼓を打つ。一同全部飲み干して、二杯目は自分で注ぐ。トプトプと、注がれていく液体に目がいった。淡いレモンイエロー。スティングの髪の毛とは少し違うんだな、と髪の毛をチラリと横目で確認してしまう。スティングの髪の色は綺麗なブロンド。
ナツはハッとして目をそらした。綺麗ってなんだ。普通は女に使う言葉じゃないか。急に気恥ずかしくなる。頬が熱くなるのが自分でも分かった。
一杯しか飲んでいないのに酔いがまわったのか。余りにも弱すぎやしないか。

「ナツさん大丈夫?顔赤いけど」
「だ、大丈夫にきまってんだろ!まだ、一杯だぞ!」
「そうだよね。顔に出やすいんだ?」
「そっ…、そーなんだ!オレ、すぐに顔に出ちまうからっ、心配すんな」
「うん」

柔らかく微笑むスティングに、何故か心拍数が速くなる。おかしい。きっとこれは普段こんな豪華絢爛な場所で飲まないからだ。そうナツは自分に言い聞かせた。

「あの、ナツさん」

顔を上げるとスティングが妙に改まった顔して此方を見ている。無礼講なのに、どうしたと言うのだろうか。

「スティング?」
「ナツさん、ごめんなさい」
「えっ」

余りにも突然謝られたので、何事かと思いグラスを一旦テーブルに置く。ナツも改まってスティングにむき直し、頭を下げているスティングを覗き込んだ。

「ど、どうした急に」
「オレ、ナツさんのこと憧れてる癖に、見下して粋がってた。ギルドの恩人なのに」
「ギルドの恩人、はねぇと思うけど…、そうなのか?」
「オレにとっては恩人だよ」

スティングは力なく笑う。そして、更に続けた。

「ナツさんはオレの全てで、オレの目標で、オレの憧れだ。今回の大魔闘演武は完敗だった。やっぱり妖精の尻尾は格が違うっていうこと、見せつけられたよ」
「だろ?うちのギルドすげーだろ?」
「そうですね…、それとドラゴン…」
「あー、のさ、スティング」

突然話題を遮るかのように、少し大きめな声でスティングの名をナツは呼んだ。遠慮がちに上げたスティングの顔は眉間に皺がよっており、こんな場所には場違いな顔をしている。ナツは、スティングが言いかけた事をなんとなく感じた。力が足らなかった。ごめん。そんな謝罪の言葉、今はいらなかった。
そもそもスティングに謝って貰う道理などどこにもない。逆に、ドラゴン退治を手伝ってくれてたんだろ、有り難う。そう伝える方が先だったのに。スティングに先手を打たれてしまった。仕方がない。ナツは、気を取り直してスティングに伝える。

「もう終わった事だから、気にすんな」
「でもっ、ナツさ」
「美味いもん、一緒に食べようぜ?」

ナツが、破顔するとスティングもようやく安心したのか、大きく頷いた。なんだかんだいいつつ、年下なのでそういう素直なところが可愛く見える。
…可愛い?やはり今日の自分は少しおかしい。この目の前にいる男に対してへんな気持ちになっている。言うなれば、なんだろう。思い当たる感情があるような、ないような。
と、ここで皆が色めき立った。何事か、と周辺を見るとテーブルが左右脇に移動され、ホールの真ん中が空間として広がる。王国お抱えの管弦楽団たちが三拍子の、ゆったりとしたテンポを奏で始めた。ワルツ、と呼ばれる音楽だ。

「踊んのか」
「どーかな、ナツさんは?」
「オレ、まだ皿全部空けてねぇし」
「なら、夜風当たりながらどう?」
「おー!いいな!」

スティングが窓を顎で指す。
すぐ近くにはテラスに出られる外開きで大きなガラス張りの扉がある。
ナツは自分の皿を持ち、スティングはナツと自分のグラスとシャンパンボトルを手に持ってテラスへでた。

* * * * *

花の都クロッカスは花の匂いに包まれていた。
外に出ると様々な花の匂いが夜風に乗ってナツたちの花を擽る。
と、言ってもドラゴンの襲撃で壊滅状態になった街からは、焼け焦げた硝煙の臭いのほうが強いが。
喧騒の、一歩外はとても静かだ。
近くに用意されていたテーブルに各々が持ってきた物を置く。扉をしめると、管弦楽団の音楽が微かに聞こえるだけだ。優しく響くバイオリンの音色が、笑声と共に夜の闇へと吸い込まれていく。

「あ、スティング」
「ん?」
「さっきの、二杯目注ぐな」
「ありがとナツさん」

先ほどの約束を果たすべく、ナツは率先してボトルを持った。まだ、一杯目が残っていたスティングは、ナツの誘いに乗り、酒の残りをぐいっとあおぐ。
空になったグラスに酒が注がれるのを注視しながら、スティングは口を開いた。

「…ナツさん、ありがと」
「何が?」
「色々とさ」
「あー、あー…」

何かを思い出したかのようにナツは頬を照れくさそうに掻いた。
スティングは、多分自分と考えている事は同じなのだろう、ギルド襲撃を思い出す。あの時のナツさん、可愛くて格好良かったなあ、などと見当違いな事を思い出す。しかし、あれがあったからこそ今があるようなもので、ナツの突然の襲来には胸が高鳴ったのも確かだ。格好いい、等の感情では言い表せない高揚感。この人は何をしでかすか分からない。また憧憬を厚くした。だから、彼は、格好いい。最高だ。
そしてそれと同時に徹底的に潰して跪かせたいという衝動に駆られた。その願望は見事に消え去ったが。
そんなナツを好きになったのは言うまでもなかった。明るく努めるナツは最高にして、最大の。
はた、と思い留まる。最高にして最大の何だろう。憧れ、とはまた違うこの、感情。

「あ、もう料理ねぇや。スティング、オレちょっと取って」
「ナツさん」

物思いに耽っていた間に、料理を平らげていたナツの手を言うより先に手に取った。幸いにして、ナツは皿を手にする前だったので皿を割るという参事は回避出来た。
ナツは突然掴まれた腕を見て驚いてはいるものの、振り解こうとはせずきょとんとスティングの顔と持たれている手の交互を見ている。
自分でも明確にこのような行動をとったか分からない。ただ、ナツにここに居てほしかった。
この、感情が分からないから。分かるまで、独りにしてほしくなかった。独りにされると、恐らく分かってしまう気がする。
分かるまで、居てほしい。その気持ちが行動を取らせた。

「スティング、手」

手を離して、欲しい。ナツは掴まれた腕が熱くなっていくのがよくわかった。スティングの手の体温が高いのもそうだが、それ以上に自分の体温が上昇していくのが有り有りと分かる。
料理を取りに行こうと思ったら突然腕を掴まれて、呼び止められて。自分の胸は張り裂けそうなほど高鳴る。今日という日、この遊宴がそうさせているのか、それとも。気が付きそうで気がつけないこの感情。どこか覚えがある。ただ、それに気が付いてしまえば何となく自分が変わってしまうのではないか、そんな気がして気が付きたくなかった。
スティングの顔を見やると、何かを言いたげな顔をしている。何を言いたいのかは分からなかった。出てきそうで出てこない言葉がむず痒そうにしているらしく、目をせわしなく動かし、自分とあわせようとしない。
そんなスティングに苦笑いしてしまった。

「なんだよ、言いてぇこと、あんじゃねぇのか?」
「…あの、さ、ナツさん」
「ん?」
「えっと、その、気持ち悪ぃかもしんねぇんだけど」

言いたいことがあるなら、はっきり言えという竹を割ったような性格をしているナツはスティングのもったいぶった言い方に、少し眉を顰める。

「なんだよ、言ってみろよ」
「…ッ、その、踊って、欲しいんだけ、ど…」

スティングは目元を赤くしてナツに告げた。
語尾は消え入り、その願望ともとれる露吐には明らかに恥ずかしさが混じっている。
それもそうだ、男と踊るのだから。通常なら女性を誘うもので、男を誘うなど到底有り得ない。しかし、この場面で男の自分を落掛るなど、正気の沙汰ではない。それは自分でも分かっている。しかし、そんなことはどうでも良かった。せっかく二人きりに誘い込めたのだからなんとかして近づきたかった。近づきたかった結果が、これか。
自分でも落胆しかない。相手がどうでるかはまさに神のみぞ知る。
スティングは半ば祈るような気持ちでナツを見た。ナツは、特に呆れる事も無ければ、笑ってもいない。
むしろ、自分の想像とは全く正反対で、顔を真っ赤にしていた。うわっ、ヤバい。何がヤバいって、可愛いと思ってしまった自分がここにいる事がヤバい。
まさかナツが顔を赤くしているとは露ほども考えず、思わず目を剥く。いや、待て。もしかしなくても酒で赤くなっているのかもしれない。先程ナツがそう自分で言っていたのを思い出す。
そうだ。これは恐らく酒の所為だ。そう思いこむことにしよう。スティングは無理やり納得して、ナツを見る。今度は自分ではなくナツが視線を合わせようとしない。
と、ここではたり、と気が付いた。ナツは、拒否の言葉を発していない。もしかして、もしかしなくてもこれは。

「えっ、ナツ、さん?踊っても、いい、の?」
「お前こそ、オレで、…いいの、…かよ…」

否定どころか、寧ろこれは肯定的ではないか。スティングは自分の目を疑う。気になる相手を誘って断られる前提だったのに、見事な拍子抜け。

「いっ、えっ、と、え?」
「ッ…!!踊んのか、踊んねぇのかはっきりしろ!」
「踊ります踊ります!踊らせてください!」
「…わかった」

返事をスティングが言い澱んでいたのに対してナツは流石とも言うべきか、白黒はっきりつけたがる性格が功を奏して、踊る事を取り付けてしまった。偶然の出来事にしては出来過ぎているような気もしなくはないが、これはこれで良しとする。
スティングは、ナツの返事を聞いて意を決し、ナツの目の前に立つ。腕を掴んでいた手はナツの手を取り、優しく添える。もう片方はナツの腰に手を添えた。
ナツの腰が思いの外細いことにびっくりする。筋肉はしっかりついているのは分かるが、少年らしい身体付きで、見た目よりも肉厚が薄い。
男にこんな感想を抱く自分もだいぶ酔っているな、酒の所為にしておいた。それが、もし正気なら。
スティングは、ゆっくりと足をはじめとする踏み出す。それに足を躓かせながらもナツも足を一本、横に踏み出した。上手いことステップが踏めないのか、足下がもたつく。確かにナツは、そういった儀礼はなれてなさそうではあったが、まさか全く駄目だとは思ってもおらず、意外な一面を覗かせるナツに、スティングは少し嬉しくなった。

「ナツさん、下手なんだ」
「うっせ」
「なら、オレがリードするから、いくよ?」

ナツは素直にこくんと頷く。

「右、左、右、右、左、右…うん、そう、上手。ナツさん飲み込み早いね」
「そっ、そうか?」
「うん」

スティングのコーチングで一緒に踊る。そもそも男同士でおかしいよな、と頭をチラリと掠めたが、窓の内側にはエルザがカグラと、フリードがラクサスを誘っているのが見えたので別段おかしいという訳でも無いらしい。事実、皆が皆男女と踊っている訳ではなかった。
なら、中で踊れるかと言われれば違う気がする。自分にはこういったひっそりとした場所で、こうやって踊っているのが似合う気がした。
表では、ひっちゃかめっちゃかやってはいるが、こう落ち着いている姿をギルドの面子に見られるのはどうも気恥ずかしい。スティングが、外に誘ってくれてよかった。
顔をあげると、慈愛に満ちた表情でスティングが自分を見下ろしている。その視線に胸が締め付けられる。優しいコバルトブルーの瞳。そうやって、女を落としていると思うと更に胸が痛くなった。
そこで漸くナツは、気が付く。あ、オレ、こいつの事好きみたいだ。
大魔闘演舞という、短い期間でこんなにも好きになるなんて。印象は最悪だったのに。
好きだと自覚すると、どんどん胸が高鳴る。スティングは自分の知っている人間の中では、指五本に入るぐらいの美形だ。その整った顔にマジマジと見つめられると、頭がおかしくなる。
この顔が赤くなっているのも酒ではなく、今手を取られてるコイツの所為だ。
ナツは、再び顔を俯けステップに集中する。そうすればきっとこの気が付いてしまった気持ちの発散になるかもしれない。そう、願った。

「ナツさん」
「なっ、何」

返事をするのが精一杯で、少し声が裏返ってしまったが、スティングは特に気にする様子もなく、続けた。

「ナツさん、可愛いね」
「ッ…?!」
「あっ、ごめんナツさん。オレ、酔ってるから変なこと言ってるよね?」
「言って、」

言ってる、と言いかけたその時、自分達が来たドアの方向から聞き覚えのある声が足元から聞こえてきた。

「でぇきてるぅ」
「はっはーん、スティングくん、ナツくんの事が好きなんですねぇ」

バッと勢いよく顔を下に向け、二人で一緒に足元を見るとナツの相棒の空色のエクシード、ハッピーと、紅色のエクシード、レクターがいた。
いつの間にか仲が良くなっているようで二匹は肩を組み自分達をニヤニヤしながら眺めている。
心なしか頬が上気しているのは気のせいだろうか。

「ハッピー!」
「レクター、見てた?」
「スティングくんもナツくんも、隅に置けないですねぇ、ねぇハッピーくん」
「そうでありますなぁレクターくん!」

二匹のエクシードは酔っているのか舌があまり回っていない。あははは、と笑い上戸になっているようで介抱を必要としている。
ナツとスティングは顔を合わせてぷっ、と吹き出した。肝心の相棒がこの状態だと、踊るのは続行不可能なため、二人のワルツはここでお開きとなった。

「あっ、ナツ!ハッピーたち、大丈夫?」
「おールーシィ!大丈夫じゃねぇから、介抱してくるわ」
「そう、お願い」
「まっかせろ!ほら、レクターも行くぞー」
「んんー、ナツぅ、でぇきてるぅ…」
「できてる、できてる」

適当に受け答えして、酔っ払いの猫たちを抱き上げてる。ハッピーは、眠たそうに抱き上げられているナツの胸の中でむにゃむにゃと言い出した。どうやら眠たかったらしい。スティングも同じらしく、レクターも既にスティングの腕の中で寝息を立てていた。
こうしてお開きになってしまったのは多少残念だったが、お互いに大切な相棒がいるので蔑ろにもできない。顔を合わせて苦笑いをする。
スティングは改めてナツに尋ねた。

「ナツさん、また踊ってくれる?」
「…んー、…お前とならいいかな」

再び一緒に踊ることが来るならばその時には気持ちを伝えよう。そう、胸に決めてテラスを後にする。
その約束を聞いていたのは空に輝く優しい光の月だけだった。
二人で、ワルツを。


今夜は、キミと共に