※ブレイブサーガネタ注意



二人とも本が苦手なのに本屋でデート、なんておかしいのは分かっている。話の流れで、じゃあ本屋行こうか、って事になってオレとスティングは本屋に行った。どんな話をしていたか既に忘れたけど。たまには行かない場所にもいってみるのも悪くはない。
本屋の匂いは独特で紙とインクの匂いが入り交じっている。嫌いじゃないけど、読むと眠たくなってしまうので何となく苦手な匂いに分類されている。
それはスティングも一緒らしく、先ほどまで笑顔だったのにも関わらず、眉間に皺が寄っているのは恐らくオレの見間違いではない。どうも、習うより慣れろのオレ達には苦手な場所だった。

「あ、これ」
「どした?」
「ユキノに薦められたやつ」

以前、クエストの最中スティングが本が苦手、と漏らした際にルーシィとユキノがスティングにも本を好きになって貰おうとしていた事を思い出す。その時に薦められたのであろう本が、平積みになって置かれていた。人気なのか。手に取りやすい位置に置かれていたので、恐らくそうなのかもしれない。

「読んだのか?」
「いや、やっぱ苦手で」
「あー分かる」

自分も本が苦手なので、薦められても進んで読みはしない気持ちが痛いほど分かる。オレも前にルーシィに薦められた事があったけど、結局それっきりだった。途中までは読んだけど、飽きてしまった。それからというもの手につけていない本が家にあることを思い出した。

「ナツさんもなんだ」
「おぅ」
「ルーシィさんも本好きだもんね」

本屋に来てもみる本がないので、オレたちは本屋から出てきてしまった。滞在時間5分。デートコースの中でも一位か、二位を争う位の短さを誇る。
本屋を後にしたオレたちは、特にどこへ行くと決めず街中を歩く。たまにはこういうのも、いいかなって。
所でコイツの口からルーシィ、と漏れるのが何となく不思議に思えた。
最近はよく剣咬の虎に出くわして、一緒に仕事をすることが多い。たまたまなのか、それとも依頼主がそういう趣旨なのかよく分からないが、本当によく遭遇する。嬉しくない訳ではないけど、その分お互いがお互いのギルドの人物と仲良くなっていくのを目にする。
情報交換としてはありだし、私的に仲良くなるのも全然おかしいことじゃない。
でも、コイツがルーシィ、と呼ぶとなんとなく嫌な気持ちになるのは気のせいだろうか。いや、多分気のせいじゃない。きっと、これは。

「ナツさん?」
「あ、なんだ?」
「ぼーっとしてたけど、どうしたの?」
「あー…っと、ルーシィのこと考えてた」

スティングの整った眉山がぴくり、と片方だけ動く。
途端目が据わり、スティングが眼を付けてくる。視線の鋭さに思わず一歩たじろいだが、オレも負け時と言い返す。

「なっ、何だよ」
「あのさ、ナツさん」
「んだよ」
「ナツさんにとって、ルーシィさんて、何?」

ルーシィはオレにとって何だろう。家族のような、恋人のような。でも恋人はコイツだし、恋人という言い方は少しおかしい気がする。家族だと少し違う。恋人に近いというか、と言った方が近い存在な気がした。
恐らくそういう風な例え方だと、コイツは明らかに怒るだろう。恋人って。アンタの恋人はオレだろう、と。そりゃそうだ。オレもコイツの事を恋人だと思っているし、とてもじゃないけどルーシィを恋人とは思えない。ただ、存在が近すぎるような気がして、うまい例え方が見つからなかった。

「ナツさん、結構酷い」
「酷いってなんだよ」

心外だ。酷いなどと言われてしまった。酷い事を言っているつもりはないし、実際そう思うのだから仕方がない。自分のボキャブラリーの無さに脱力つつ、コイツのこの態度にもげんなりしつつ。どこまでも欲深い恋人だ。多分、恋人と言って欲しいのは自分だけなのだろう。その気持ちはよくわかる。でも、待って欲しい。なら、スティングはローグの事をどう思っているのだろう。
以前に一度ローグにスティングとはどんな関係か聞いたことがある。彼はスティングの事を悪友、と答えていた。多分、多分だけれどスティングもローグの事を悪友だと答えるだろう。なら、レクターはどうだろうか。

「お前だって、レクターの事どう例えんだよ」
「…あー」
「家族か?それ以上だろ?」
「まぁ、そうかも」
「だろ?ルーシィと、ハッピーがそうなんだって」
「うーん、あのさナツさん」

スティングは改まってこちらをみる。笑うと年相応だけど、面持ちを堅くすると本当にコイツは絵になるほど整っているよな、と思った。割と、いつも。なんて、恥ずかしいから褒めないけど。

「ハッピーは、わかる。オレもレクターがいるし」
「だよな」
「でもさ、ルーシィさんは分かるけど、許せねぇっていうか、ルーシィさんの事は嫌いじゃねぇし寧ろ好きだけど、やっぱり、その例え方は嫌だ」

スティングは心底嫌そうに、眉を潜めてオレの顔を真正面から捕らえる。真っ直ぐぶつかってくる視線は紛れもなく本心。オレだって、ユキノをそんな風に例えられたらどうだろうか。嫌、だな。心にもやっと黒い霧がかかる。例えられていない例えでもこの気持ちなのだから、例えられたらもっと嫌な気持ちになるだろう。
自分の気持ちと、スティングの表情に思わず苦笑いをしてしまった。

「うん、ごめんな」
「いーよ」

口では気にしていない体を装ってはいるものの、内心は撤回して欲しい気持ちがありありと分かる様な返事だった。次に逢うときまでにうまいたとえを考えておこう。覚えておけば、の話だけど。

「ナツさん」
「ん?」
「いつか、いつかね、オレ、ナツさんの一番になるから。ナツさんがオレしか見れないぐらい強くなって、
オレのことしか考えられなくするから」

こいつはこっ恥ずかしい事をよくもまぁ真顔で言えるものだと逆に感心してしまうぐらい、真摯な眼差しで口にした。オレはというとあっけにとられすぎて、赤面している暇もなく、スティングに口付けをされた。かすめ取るような、キス。いや、まて。ちょっとまて。
遅れてオレは恥ずかしさがやってくる。この白昼堂々、公衆の面前の前でキス、しかも名の知れているギルドの男同士が。そちらの方が気になって、あまりにも恥ずかしすぎて、顔から湯気がでるぐらい赤くなってしまった。自分でもこんなに赤くなるのか、とどこか冷静な部分もあったが、大半は恥ずかしさだ。
遅れてやってきた羞恥心を隠すことが出来きない。勿論、嬉しさも含まれているがこの場で嬉しいなんていったら余計つけあがらせるだけだ。

「すてぃ、おま、っ!!」
「あはは、ナツさん顔真っ赤」
「ったりめーだろバカ!!!」

思い切り頭をはたいて、痛ってー!と声を張り上げるスティングを後目に、オレは足早に大股で歩きだした。
恥ずかしい奴。恥ずかしい奴。場所を考えろ、と口に出したところでコイツはきっと変わらないだろうし、そこまで言うほど嫌な訳ではない。かといって往来ですることには反対だけど。
後ろから待ってよーナツさぁん、となんとも情けない声を聞きながら足は緩めない。
なんだかんだ言いつつ、惚れた弱みというか。コイツに甘い自分にもなんだか腹立たしくなる。ホント、コイツは。
悔しいので、待ってなんかやるものか。オレはそう決め、スティングを無視して足を進めた。
ホント、スティングがオレを好きすぎてムカつく。オレがスティングを好きすぎてムカつく。
誰にぶつけることが出来ないこの苛立ちを大股で地面を蹴る力に変えて、歩き続ける。
この行き先は、多分。


どんな場所でも、あなただけが好き