※エロ注意



ただの、魔力補給だ。
舌を絡めながらそう自分に言い聞かせた。ナツは相手の舌を追い、その度に流し込まれる唾液を必死になって嚥下する。気持ち悪い。しかし、魔力、体力共に消耗している今はこれしかない。腕を動かす事も怠いのに、舌なんて動かしてられるか。そう吐き捨てたくなったが、本能的に動いてしまうのは性が残っているからだろうか。自分にもよく分からなかった。
舌を絡めてくる相手と、魔力の補給が出来ることを知ったのは本当につい最近の事だった。この男と身体の関係だけを結んでいるのだが、前回肌を重ねる前に興味本位で口付けをした。その時に、ふわりと身体が持ち上がるような、妙な感覚に襲われた。放出された魔力が、戻っていく。ぴったりと当てはまった。唇を離し、舌打ちをした。気持ち悪ぃ。そう、捨て台詞を吐いて行為に及んだ。何故今までそのような事が分からなかったのか、と考えてみれば、体液が粘膜に擦り付けられて、胎内に取り込んでいるわけではない。あくまでも摂取が必要なのだ。しかも、互いに、同時に。
そして気が付いてしまった今、こうして唇を合わせて舌を絡め合っている。そこに愛情や、恋情などという感情は持ち合わせていない。ただあるのは、利益のみ。
唾液を数回に分けて呑み込む。その度に気だるい身体がゆっくりと回復していくのが分かる。正直、悔しい。コイツと、こんな事で魔力が戻っていく事がありありと分かるなんて。
白竜だから、かもしれないし、もしかしたら他の滅竜魔導士、引いては全魔導士ともこういう風に体液を交換する事によって魔力が取り戻せるのかもしれない。だが、自分にはそんな趣味はないし、もちろんコイツとももう二度としたくない。
身体だけでいいのだ。身体を繋げて、性欲を発散させるだけで充分なのに。
かなりの時間舌を絡めていたが魔力も少しだが取り戻し腕も動かすのには面倒臭く無い程度には復調した。と、ほぼ同時に長く重ねられていた唇がゆっくりと離される。唾液が銀糸のように糸を引き、自分と男の間を取り持つ。こんな糸直ぐに消えてしまうのに。チリっ、と胸の奥が何故か痛くなる。分からない痛み。時折、この痛みを感じる時、必ずこの男の双眸が自分を見下ろし、愉しげに口元を引き上げているときに起こった。怒り、とはまた違う何か。

「へぇ。オレも回復すんだ。すっげー便利」
「っせぇよ。さっさとヤんぞ」

口端から飲み込めず伝った唾液を手の甲で拭う。口付けなど無かったかのように、強く拭い去った。この男に痕をつけられるなんぞ、考えたくもなかった。身の毛がよだつ。

「随分、積極的」
「無駄口叩いてっと殺すぞ」
「それは勘弁」

裸のまま、甘いなんて程遠い口付けをしていた男は自分を組み敷く。口付けをする前にも、身体を重ねて性欲を互いに吐き出していたはずなのに、飢えは収まらない。それに合わせて、男が試してみたいと言い口付けをしたのだった。
甘い雰囲気なんて求めていない。性欲が無くなればもう用済みだ。定期的にあって、定期的に身体を重ねるだけの、本当にそれだけの関係だからこそ、口付けなんてしたくなかった。悪戯に、してしまった自分に嫌気がさす。また、身体と同じようにしたくなるのだ。男の、自分とは異なった魔力を欲して。癖になる、と最初した時に直感したのにまたこれで次にあったらしてしまうのだろう。それは挨拶のように。
馬鹿だ。それではまるで恋人ではないか。はっと鼻で笑い飛ばす。恋人?コイツが。なるわけ無い。自分の腕の中に収まるような、そんな男ではない。また、胸がチリ、と痛む。これだ。組み敷く男の顔をみると澄んだ蒼がじっと見つめている。表情は特になく、何を考えているのかは読み取れなかった。

「なに、鼻で笑って」
「知らなくていい」
「なら、考えられないぐらい激しくしてやるよ」
「上等」

売り言葉に買い言葉。仲良くしたい訳ではない。だから、この距離感が丁度良いとも思う。
この関係に一歩でもどちらかが踏み出したら、恐らく簡単に崩れるだろう。押せば簡単に崩れる壁のように。音は立てず、砂のようにサラサラと、あっという間に。
男が秘所に手を伸ばす。ムードもクソもないな、と吐き捨ててやろうかと思ったが、それより早く指が伸ばされゆっくりと潤んでいる粘膜の壁を押し開いてゆく。先ほどまで拓かれていたはずなのに、またきつくなっているのは本来そこが受け入れる場所ではないからだ。潤みも若干乾きだしている。流石に痛いのは嫌だし次の日に響くのは勘弁願いたい、と上体を起こして男に言おうと思うより早く、ひんやりと秘穴に粘液が流入してくる。
こういう所が意外にも優しいというか、気を使われるというか。入念に解されて、グズグズになるまで愛撫される様は、それこそまるで恋人のようだ。女じゃないのだから、酷く扱っても良いのに。口には出さないが抱かれる度にその事実はまざまざと知らされる。女役が、嫌になるぐらいに。だからと言ってこの男を抱くかと言われれば死んでも抱く気はないが。

「…ッ、…」
「もっと声出せばいいのに」
「っせぇ、よッ…!ッ、ぁっ…!」

すでに中指と人差し指が入っていた内で第二関節が折れ曲がる。中指の腹が内壁をこするとえもいわれぬ快感が背を駆け上り脳天に達する。肌が粟立ち、もう一度それが欲しいと脳が身体に信号を送る。声を出して喘げば、恐らくこの男は好くしてくれるだろう。しかし、それはあまりにも癪に触る。声を抑えて、シーツをギュッと握りしめやり過ごす。これから、これ以上の快楽が待ち受けているのだから。

「直ぐ解れるのな。エッロ」

グチグチと派手な音を立てて、男は自分の中をかき混ぜてくる。触れて欲しいと思っている所には、掠める程度にしか触れず、敢えて焦らされているのが分かる。
この男のこういう所が狡猾で、卑怯だ。いつも、自分が強請る羽目になる。強請らせるのが好きだからだ。
本当は自分だって強請りたくは無い。確かにそう思っているはずなのに、ついて出る声は違う声色。明らかに男の、狂暴で自分の自身より一回りほど大きい怒張を欲している。身体全て、どこも彼処もが。
噛み締めていた唇をゆっくりと開く。未だ弄られている秘穴への甘い責め苦は続いており、思わず喘ぎが出てしまいそうになるが、手が白くなるほどシーツを握り締め、なんとか耐えた。
はぁ、と一度大きく息を吐き出し、声をなんとか搾り出す。言いたくないのに、言わされるこの、苦痛さえ次には気持ち良くなるのだ。

「早くっ、…」
「何?」

男はこちらの顔も見ず、弄り続けている。普段整えられている淡黄色の髪の隙間からニヤリと笑う口元が垣間見えた。素面なら、殴り飛ばしているのにそうできないのはこの今の状況だからだ。
執拗な責め方に身を捩って逃げ出そうとするが、足首を掴まれているため、逃げ切れない。
もとより、この愛撫の所為で力が入らないのだが。
是が非でも言わせたいらしく、積き止めていたプライドを手放す。もう、どうにでもなれ。

「早く、っ挿れ、っ…!」

顔を上げ、視線がぶつかる。男は心底嬉しそうに笑い、指を引き抜くと自分が欲していた怒張を秘穴に押し付ける。ヒュッ、と喉が鳴る。これから襲いかかる半端のない快楽を待ち構えているのだ。惜しげもなく、喉を鳴らすなんてあまりにも下品ではないか。
そんな事など、男は気にもせず、そのままゆっくりと腰を押し進める。押し返される内壁をかき分け、秘所を暴かれていく。
いつも、この感覚が堪らなく気持ち良く、ゾクゾクと快感が這い上がってくる。もっと痛くすればいいのに、敢えてこのような責め方をするのは趣味なのだろうか。聞きたくもないけど。

「っ…!ッ、っぁ…!ッはぁっ…、」
「っ、…」

息を一度詰め、吐き出す度に自然と声が出てしまう。出したくないのに。
女のように、霰もなく嬌声を上げられたらどんなに楽だろう。いつか、自分にもそのような相手が出来るのだろうか。今はまだ、分からないけど。
愛の欠片が微塵も感じられないこの行為に、そんな声を出したらこの男は恐らく軽蔑して、会わなくなるだろうか。また、胸の奥が痛む。どうして、痛むんだろう。

「余裕、っあんね、っ…ナツさん」

行為の、しかも挿入している間だけ名前を呼ぶ。卑怯だと、いつもこの最中に思う。
日頃はなぁ、とか、アンタとしか言わない癖に、この時に限って名前を呼ぶなんて。
最奥まで漸く到達したと思えば、いきなり激しく律動される。あまりにも急で、目の奥がチカチカと星が飛んだ。余裕があまりにも無さ過ぎて、息を吸うだけで精一杯だ。
ただ、滅茶苦茶ではない。確実に自分があてて欲しかった箇所を確実に突き上げてくる。ぬるりとした粘膜を執拗に、何度も。
腰を両手で捉えられており、身を動かしたくても動かせず男の思い通りになっている。せめて自分主体で動ければ、と何度も思った事があるが結局最終的にはこの男に引導を渡してしまう自分が憎かった。結局、この強烈に分け与えられる快感にはどうあがいても、あがらえない。

「っ、…!ッ、っ…!」
「何っ、イきそっ…?」

何の前触れもなく自身を触られ、扱かれる。中でも最初に比べれば大分感じる事ができるようになったが、自身にはまだ敵わない。鈴口の割れ目をグリグリと爪を立てられ、かと思えば竿を思い切り扱かれると、中に入っている男の自身を締め付ける。そして、その形がありありと分かって、自分が今何をしているのかを改めて認識してしまい、射精感を促されてしまう。
男に問われて、顔を背けながらも必死に頷き肯定する。出るものは出すし、出したいものは吐き出したい。素直に肯定した。
途端、勢いよく男の自身が引き抜かれるとの同時に、自身を愛撫されていた指が離され目を見開いて驚いたが、視界が天井から枕へと反転した。一瞬何が起こったか分からなかったが、自分がうつ伏せになったことを覚る。しかし、意図までは良く分からず、肩越しに顔を男に向け、眉を寄せて睨んだ。
そのまましていればイけたのに。そう恨みをこめて。

「そんなに睨まないでよ。思い切り、」

イかせてやるから、ナツさん、と身体全体に体重を掛けられて、押しつぶされるかのようにのし掛かれながら、耳許で酷く甘く囁かれた。まるで媚薬だ。

「ほら、ナツさん腰上げて。挿れらんないよ」
「っ…調子っ、こいて…っんじゃ…、あっ…!」
「あー、やば、」

後ろ向きになっても腰を持ち上げられ、再び秘穴に男の自身があてがわれてゆっくりと挿れられていく。ヌププ、と潤った水音が耳を掠めて羞恥に頬が一瞬で熱くなった。先程まで秘所に埋められていた所為か、なんら抵抗もなく挿入されていく。
これじゃあまるで、淫乱ではないか。男を嫌がらず受け入れて、気持ちいいだなんて。あまつさえ、抜かれてまた欲しているなんて。
睨んでいた顔を枕に戻し、口元を埋めた。顔が赤いことを知られたらなんて揶揄されるか分からないし、そんな姿を見せたくもなかった。
思わず出てしまった喘ぎも、封殺するために埋める。恐らく、声は届かないはずだ。

「ナツさんさ、後ろ好き、っだよ、ね」

言うのとほぼ同時に中を思い切り突き上げられて、激しく律動する。肉がぶつかる鈍い音が部屋に響き渡り、鼓膜を刺激される。それに伴って、思わず声を出してしまいそうになる。やめてほしいのに、やめて欲しくない。相反する気持ちが湧き上がり、声は辛うじて抑えられたらものの、鼻に掛かる甘い喘ぎが脳内に反響した。

「っ…、ふっ、…んっん、…んっ!」
「奥、すげぇ、締まって、」
「っぅぁ…!っ、っ、…!」

実況されると、きゅんと奥がしまるのが分かった。マゾヒストなのかオレは。と更に頬が熱くなったが、断じてマゾでは無いことを、祈りたい。実況されて嬉しいわけがない。なのに、どうして身体は反応するのだろうか。
恐らく、それは。

「っ、でっ、っ…!」
「っ…ナツさっ、ナツ、さんっ…っ」

いい加減爆発しそうな自身は、赤く膨れ上がり切なそうに透明な先走りをポタポタとシーツにこぼし、涙している。自分でそれに触れようとしたが、その前に男の自分より大きな掌に捉えられ激しく擦り上げられる。身体が大きく跳ね上がり、ゾクゾクと腰回りを快感がとめどなく駆け巡る。もう少し、もう少しで欲望を吐き出しそう。そう、告げたいのに告げられないのは激しい律動で追いやられているからだ。もう、辛抱出来ない。
男に吐精することを告げると、更に増して男の腰の動きが激しさを増す。彼もあと少しで、達せ層なんかのだろう。自分にひたすら無我夢中で欲望を打ちつける。優しさの欠片も感じられ無いのに、どうしてこんなに気持ちいいのだろう。
息だけで、喘ぐ。声は出さないよう必死なって抑えた。男は男で自分の名前を、馬鹿みたいに呼ぶ。正直、やめてほしかった。自分という人物が組み敷かれ、名前を呼んでいる男によって犯されていることを示されることが、非常に嫌になる。
嫌いではない。だが、それ以上にこの愛の無い、ただの性欲解消の行為に意味をもたらしそうで、怖かった。

「っ、ぁっ…!!」

ビクビクと大きく身体を跳ねさせ、絶頂に達する。シーツに勢いよく欲望を打ちつけ、力無く倒れ込んだ。と、同時に男の欲望が中でたっぷりと満たされ、勢いよくずるり、と引き抜かれた。一緒に白く泡立った男の精と混じった潤滑剤が、こぽりと溢れてくる。

「はっ、…っ…」

その感覚に、いまだに慣れずどうして良いかもよく分からなく、そのまま荒い息を整えるために何度か深呼吸をする。吐き出された精液の匂いと、自分達の体臭の匂いと、荒い息づかいが部屋を満たし官能的な芳香を醸し出していた。

「はー…、あー、シーツ汚れた」
「っ、てめぇのも、あんだろっ…」
「あのさ、洗ってきてくれる?後ろ、どうせ処理すんだろ?」
「っ…!うるせ、っ」
「あーあ、急に立つから」

飛ばした精により汚れてしまったシーツをみて、男が呟く。勿論自分が大半だが、汗染みを男だって作っているのでどっこいどっこいの筈なのに、なぜ自分が咎められないといけないのか。
抗議のために、勢い良くベッドの上に立ち上がると中で出された交じり合った体液が太股に伝いトロトロと落ちてくる。
その感触に思わず赤面すると、男は苦笑して風呂に促された。後処理をしなくてはいけないのは誰の所為か。心の中で毒づき、ベッドから降りてシーツを引っ張る。ずるずるとだらしなく引きずりながら風呂場へと直行した。

「っ、…なんだよ、ふざけんなよっ…」

男は一体なんなのだろう。優しくしたかと思えば、簡単に突き放して。名前を呼んだかと思えば、普段通りに振る舞って。翻弄されてばかりだ。自分だって本当は翻弄してやりたい。手の内で転がしたいのに、いつも転がされてしまうのは気のせいではない。事実、気持ち良くされているのだ。腹立たしい程に。
コックをひねりシャワーを浴びる。暖かくもなく、冷たくも無い温度。まるで、自分達の距離のようだ。
本当は、距離を、ほんの少しでもいいから短くしたかった。相手が何を思って自分を抱いているかだけでもいい、知りたかった。なぜ、自分の名前を呼びながら抱くのか。分からない。男の、全てが分からない。
シャワーを頭から浴び壁面を利き手で思い切り殴る。ヒビは入らなかったが、代わりに自分の拳が痛くなる。分かりたい、でも、分からない。この苛立ちを抑えたいのに、抑えられないのは男の考えていることが見えないから。

「ほんと、っなんなん、だよっ…!スティングっ…!!」

名前を漸く呼べた。スティング、たったこれだけの名前なのに、呼ぶことも許されないのか。
再び胸の奥が痛み出す。この痛みを知られたくも、知りたくもないのに何故痛むのだろう。男の、スティングを思う度に。幾度も、何度も。
そう、これはただの、魔力補給。なんら愛の無いただの行為。



気が付きたくない、気が付きたい