アルドは可愛い。
可愛いというのは弟みたいなもので、年からしていえば孫みたいなものだ。そういう庇護欲のほうが強い可愛いである。と思っていたが実際は違った。
ルイーズの一件で、オレは死ぬはずだったのにアルドのせいで暫く生き抜かなくてはならなくなった。もうしばらく、アルドと一緒に冒険するというなんとも意地汚い欲望も同じく湧き出してしまったけど。
オレは声を大にして言いたい。どう責任とってくれるんだって。アルドの育ての父、ギレウスにどうしてそんな真っ直ぐ育てたのかって。血を分けてないのに、似ているところがあるのはきっとギレウスが愛情をこめて育んだのがよく分かる。あの真っ直ぐな瞳に、オレは負けた。それはもう盛大に。だから、夢を見てしまった。
「はぁ……」
肩をすくめて大袈裟にため息をついたところで状況が変わるはずもなく、月影の森へ素材を集め終わり、今はヌアル平原をとぼとぼと最後尾を一人で歩く。目の前にはアルドとその妹、バルオキー警備隊の3人が肩を並べている。
みな幼い時からの知り合いらしく、また気が合うためずっと話に夢中だった。時折出てくるモンスターを難なく倒すとまた話しをし出す。
アルドが誰かに顔を向ける度に、表情がほころぶ。やはり同世代との会話が楽しいのか時折笑い声も聞こえる。
自分に躊躇い無く踏み込めるアルドも、まだ成長途中だと思わせる1面だった。
当然ながらその間に割って入ろうとするような野暮なことはしない。ここは年長者らしく、見守るのが一番だとは思う。思うが、アルドをちらりと盗みみる度に、ため息が出そうになるのも事実だ。
どうしてくれよう。この気持ち。ギレウスやカドリーユ、ルイーズと冒険している時ならともかく、外見年齢はまだしも、年だけは無駄に食っている。
「ヴィクト?」
思案中に名前を突然呼ばれ、顔を上げるとアルドが不思議そうに立ち止まって、肩越しに顔を向けながらこちらをみている。他の仲間たちは既に少し先を歩いており、腕を伸ばすほどの距離にいるのはアルドだけだった。
「ん?」
素知らぬ顔で返事をすると、次は身体をこちらに向け、歩み寄ってくる。
「大丈夫か?」
「大丈夫ってなにが?」
「何がって」
アルドは言いかけたが、妹に名前が呼ばれた。オレの耳にも届いたし、無視が出来ないお人好しの子は返事をしてからオレに目配せをすると、すぐさま仲間たちへ駆け寄ってしまい、距離が作られた。今度は腕を伸ばしても、足を大きく出しても届かない距離。このぐらいの距離が適切で、オレには丁度いいのに、あちらが距離を無視して入ってくる。そういうところにきっと惹かれた。
仲間たちは嫌いじゃない。だからこそ、アルドの独り占めはしたくない。したくないけど、してほしい。これではまるで二律背反だ。
年を重ねるに連れ、欲は手放してきたつもりだった。因縁の敵と決着をつける、それだけの為に生きてきたのに。
「全く、こういうことは勘は当てにならないな」
アルドの声が聞こえる。ヴィクト、置いてくぞ、と。そちらに行くと、大きく手だけをふり返事をする。可愛い、あの子の元へ。


アナザーエデン/ヴィクト×アルド