彼はよく笑っている。
勿論怒るときもあれば、悲しげな顔をしている時もある。それをさっ引いても、やはり自分が知る限りでは笑う顔が真っ先に出てきた。
目を細めて、陽気に。彼の人柄は仲間を惹きつけて絶対に離せない、人徳もあるだろう。それが、表情にでている。
湿原で素材を集め、贔屓にしてくれているユニガンの宿で一泊をすることになった一同は、女性、男性にそれぞれ別れて室内に向かう。今日はたまたまヴィクトとアルドだけが男性、その他は女性という組み合わせだったので、必然と一部屋になってしまった。
部屋に入るとアルドは装具を外し、備え付けられている腰より少し低い棚の上に優しく置いた。
「疲れたな」
「ああ」
ヴィクトも同様に、装具を外していく。普段身につけているとは言え、長時間ともなると体は窮屈になる。
「ヴィクトがいて助かったよ」
アルドが胸当てを外しながら、ヴィクトに声をかけてくる。視線は寄越さず、装具を外しながらでも聞こえる声の大きさだった。
「オレの勘はよく当たるからな」
「いや、それもいいんだけど」
ヴィクトはちらりとアルドへ視線をやると、苦笑いをしながら今度は甲手を外すのが目に飛び込んできた。自分より一回りぐらい細い手首。年相応のしなやかな前腕。
「オレの知らない穴場を教えてくれたから、予定より早く宿に行くことができた」
「長年の知識だよ。お役に立ててなにより」
目線を元に戻し、いつの間にか止まっていた手で自分の装具を外していく。
「ヴィクトがいてくれて良かった。これからもよろしくな」
おそらくだが、仲間になってから日の浅い改めてお礼を言ってくれているのだろう。そこに打算や悪意は感じられない。あの笑う顔もきっとそうだ。
この顔が曇ることはあるのだろうか。脳裏にそんな意地悪が思いつく。ただし、日数の少なさは信頼関係が出来上がっていないのも重々承知だった。
すぐに浮かんだ感情を引っ込めて、ヴィクトは笑顔を作った。勿論、アルドには分からないように。
「ああ、こちらこそよろしくな。アルド」


アナザーエデン/ヴィクト×アルド