※エロ注意。
※グレイ×ルーファス前提のスティング→ルーファス?です。
※リレーアンソロの為、続き物になりますが読めなくはないです。



氷の造形魔導士に手酷く抱かれてから数日がたった。特に自分の様子は変わりがなく、次の日もギルド会館へ向かうことが出来たので、風呂で身を清めて剣咬の虎のギルド会館へと向かい、いつも通りに仕事をこなし自宅へと帰る。
数日間同じ事を繰り返したが家に帰るとあの嫌悪感がよみがえり吐き気を催していた。一人になるとすぐに思い出してしまう。忘却、得意だと思っていたのにそれが出来無いだなんて。
吐瀉物で汚れた洗面台に水を流し、その様子を眺めながらフフ、と何故か小さく笑ってしまった。笑えるわけないのに。どちらかと言えば嫌悪するべきなのに、喘がされていた事が余りにも滑稽で笑ってしまう。
正直性行為だなんていう生易しいものではなかったし、獣に犯されるといった方が俄然近かった。一方的に性を吐き出され、吐かされ、あの空間は正直正気ではなかったと言っても過言ではない。
気持ちいいだなんてそんな感情は一切無かった。無作為にぶつけられる欲望、痛みの方が強い。しかし、喘がされていたのも事実。気持ちよかったのだろうか、と自問自答したが分からない。それに対して自嘲したのか。やはりルーファスは自分が分からなかった。
口をすすぎ、歯を磨く。汚れた服も着替え風呂の準備をした。暖かいお湯がまるで対照的だ。氷の造形魔導士の整った顔を思い出す。まるで何かにとりつかれていたかのような。もしそうだとしたなら何とかするべきではないのか。それこそ、妖精の尻尾に仲の良い滅竜魔導士がいる己のギルドのマスターに相談するべきでは、と一瞬よぎったが事に及んだことを報告しなければならないのか、と考え踏みとどまった。
自分が男に犯されたから、などとそんなことを易々と仲間にいえる事ではないのはルーファス自身が一番良く知っている。秘穴に異物を挿入されて、声をあげただなんて。
貯まった湯を見つめ、開けていた蛇口のコックを捻って止める。湯の温度を計るため手を差しだし、指先だけを浸す。少し熱く感じられ、湯から指を引き抜いて、今度は水だけを湯に入れる。
氷の造形魔導士はどうしたかったのだろうか。水で湯を埋めながらそんなことを考える。
アンタの事が、本気で好きなんだ。確かに彼は最初そう言った。自分を記憶するまでこの性器の形を刻み続けられ、あげくの果てには彼の得意な魔法で辱められ。本当に好きなのか甚だ疑問しか感じられない。憎しみしか感じない。ぎり、と歯を噛みしめ今までされた仕打ちを思い出す。いつか絶対にこの仕返しはしてやる。
あ、としていた事を慌てて思いだしたが、水はすっかり湯より多くなってしまい、せっかく張った湯船は冷たくなってしまった。もったいないことをした。これもすべて全部アイツの所為だ。苦虫を噛み潰した顔で、栓を抜きながら着ていた服を脱ぎ、シャワーだけを浴びた。
本当に、好きならば。あんな汚らしい行為に愛などを感じない。事実、到底抱かれたとはいえない記憶を思い出していたが、己の性器は力なくぶら下がり反応さえしていない。残ったのは不気味に笑う彼の顔と、やけに艶めいて気丈した彼の声だけだ。
下唇を噛みしめながら、シャワーを止め身体を軽く拭いて寝間着に着替えると、さっさとベッドに潜り込んだ。ぎゅっと目をつむり、もぞもぞと動きながら布団の中ではずし忘れた仮面を外して、手だけを伸ばしてサイドボードの上に置く。
再び頭から布団をかぶりなおして、強引に眠りに落ちようと試みた。明日になればきっと、忘れてくれる。忘却、しよう。記憶の彼方にと、自分に言い聞かせ、暗闇がやってくるのをひたすら静かに待ち続けた。

*****

「えっ、なんだって」
「ですから、スティング様たちは出掛けていていらっしゃらないのですが……」
「なら、依頼はない、と?」
「はい。ギルドの皆様は出払ってしまって、クエストボードもこの通りなので……」
予定していた時間より少し遅れて起き、ギルド会館に急いで向かうと普段は活気づいているホールはがらんとしており、メンバーが疎らにいるだけだった。オルガはもちろんの事、ローグやギルドマスターのスティング、そしてそれにいつも伴っているエクシードの姿が全く見当たらない。キョロキョロと辺り見渡してみたが、やはり姿は見つからずギルド会館の中にはどうやらいないようだった。
しかし、よく喋る仲を直ぐに見つける。可憐な容姿は華やかさを隠せないのか、すぐに分かった。
ほぼほぼ依頼が無くなっているクエストボードのすぐ傍に立ち、余り物のクエストとにらめっこしている星霊魔導士のユキノに声をかけてみると、遅刻した自分を反省しろとでもいう様な答えが返ってきた。
張られているのは二、三枚。たまたま依頼が少なく、そして金欠の者が多かったのか。大方こんなところだろう。
「ローグと、スティングもかい?」
「ローグ様はフロッシュ様とレクター様と依頼へ、スティング様は会議があると言っていたような……」
「会議、ねぇ……記憶しておこうか」
スティングは随分変わったものだ、とルーファスは脳裏であの屈託のない笑顔を浮かべた新生ギルドマスターの顔を思い浮かべた。
自分より古株な彼はずっと刷れていると思っていた。ローグとはいつも親しげに話していたがそれでも笑顔をあまり見せることは無く、どちらかといえばローグとは違った冷たさを持った男だと記憶をしていた。
すべてが変わったのは彼らが負けてからだ。以前いたギルドマスターとその娘は追放され、行方知れず。その代わりとなったスティングは打って変わって明るくなり、笑顔を誰にでも向け、その代わり仲間を傷つける者には容赦なく立ち向かう。勇敢で、情に厚く、それでいて人の上に立つ者。百八十度以上変わってしまった印象に、勿論ルーファスは驚きを隠せなかったが、以前にもましてギルドは明るくなり、雰囲気も和やかで楽しいものとなった。気軽に話せて、それでいて距離を取ってくれる、それこそ炎の滅竜魔導士が言ってた言葉ではないが、家族、という記憶に程なく近いもののような存在だと思った。
それはさておき、意外にも彼はきちんとギルドマスターの仕事はこなすタイプで町の小さな会議から、評議員の定例報告会まで自身でこなしている姿は、舌を巻く。ただし、書類仕事は苦手のようだが。
書類に悪戦苦闘するスティングを思いだして、口元だけで笑う。その様子をユキノに見られ、不思議そうな顔で尋ねられた。
「ルーファス様? どうかされました?」
「いや、スティングは書類仕事が苦手、だと記憶していてね」
「そうですね、スティング様はいつもローグ様に手伝ってもらってますからね」
ふふ、とユキノも併せて笑った。こうして笑い会える日が来るなんて思ってもいなかったが、それも全て今会議で頭を悩ませているスティングのおかげか。依頼がなく、談笑もたまには良いものだ、と改めて感じる。
依頼がなければ何をしようか。ふと頭をよぎったが直ぐに考えついた。この暖かな空気の直後に考えたくは無かったが、色々あって部屋が余りにも汚く、急な来客にはとても対応は出来ない部屋の惨状を思い出した。
眉間に皺をつくり、眉間を人差し指と親指でもむ。思い出しただけでも頭が痛くなる。しかし、自室なので自分が片づけねば誰が片づける。面倒事を放っておいてもよけい面倒になるだけだ、と思いルーファスは小さく
ため息を付いた。
ギルドにいてもスティングや、ローグが帰ってくる保証はない。ユキノの性格は律儀なのでおそらく今日も一日ギルドにいるのだろう。特に自分がとどまる理由も無い。
「なら、私は帰って家の掃除をするよ」
「分かりました。もしスティング様が帰ってきたらお伝えしておきますね」
「よろしく頼むよ」
そう伝言を頼み、ルーファスはギルドを後にした。

ギルドを後にし、ルーファスは自宅の掃除後、何をしようかと考える。ギルド会館の書物庫で本を漁っても良かったが、大方読んでしまったし。ならば町の図書館にでも出向こうか。と、そうこう思案しているうちにたどり着いたのは自宅だった。染み着いている習慣はそう簡単に変えられるものでは無い。口元だけで苦笑いをして、ドアノブに手をかけて扉を引き部屋に入る。小さなキッチンとリビングを通り越し、ドアをもう一枚引き、その見たくなかった光景に思わずため息をついてしまった。それもそのはず、数日前の悪夢からその状態のまま過ごしてきたので部屋は惨状だった。現実から目を背けたくなるのも山々だが、片づけねば。散らばっている服と、シーツと。
あけたドアもそのままに、寝室に足を踏み入れて、重たい足取りで薄暗い部屋に向かう。遮光性の高いカーテンが引かれているため、陽の光は完全には入ってこないものの、日中の太陽をそう簡単に遮れる訳もなく、部屋全体を暗い部屋から、薄暗がりへとしている。
窓をあけはなって掃除をしようと、カーテンに手を掛けた。ふと、つま先に何か物を蹴った気配がし、足下をみると。
「っ……!!」
声にならない声がルーファスの身体中を駆けめぐる。襲われた男に使われた異物がそのまま転がっていたからだった。
それを使い慰めるよう言われ、唇を噛みしめながらまざまざと男の前で後穴を使い自慰を行った記憶が蘇る。その瞬間、身体がカッと燃えるように熱くなった。違う、そんなの、違う。ルーファスの否定を余所に、その刺激を求めているかのように背筋が震える。
掴んでいたをカーテンから指を離し、しゃがんで恐る恐る異物を拾い上げる。その異物はまさしく張り型で自分の性器よりも二回りも大きい形になっている。
過去にスティングのいたずらでそう言ったいかがわしい本や物が家に置かれていた事があり、そこで一度目にした物を造形しただけで、氷の造形魔導士に耳元で熱っぽく「いやらしい形、想像してんのか」と囁かれて酷く羞恥心を煽られてしまった事を思い出した。
鰓の張っている雁首にそっと指を這わす。形をなぞるように体液が出てこない鈴口、それから普段はそれを隠している皮が引っ張られるようにして延びている竿、裏筋をなぞるように太く血管を象っている茎、最後にたどりついたのが偽の性嚢。
はぁ、と思わず吐息が出てしまう。これで、自分を慰めたら。そんな卑猥な想像をしてしまい、頭を振って煩悩を遮った。違う、自分はこの悲惨な事になっている部屋を片づけねば。
なぞっていた指を離し、ぎゅっと握りつぶすかのように張り型を握る。が、よけい酷くその形を意識してしまい、鮮明に思い出される行為の記憶。記憶しておきたくないのに、自分の造形魔法と、その性質も相まって生々しく蘇ってきてしまった。
ダメなのに。こんな昼間から、恥辱に耽るだなんて。スティングがギルドマスターに就任する前の自分なら、こんなはしたないことを絶対に行わなかった。これも全て、なにもかもあの男が。
唇を噛みしめながら、隣になにも言わずあるベッドにボフンと盛大に音を立ててうつ伏せる。幸い、シーツ類だけは清潔にしておきたく洗濯をしていたのは幸いだった。あの男の匂いまで残してあるのは、流石に御免だ。顔を埋めながら、帽子と仮面をベッドの隅にやっておく。金糸が一束はらり、と自分の目の前にこぼれ落ち今から何をするのかを一々言われているような気がしてならなかった。その為の準備だ、なんて。
ローションになるようなものは、と埋めた顔を少しあげると視界にすぐ入ってくる。これもあの男が置いていったものだ。わざわざ置いていくとはなんと丁寧な、と心の中で皮肉ったが恐らくこの状態で行っても誘っているようにしか男は捉えないだろう。
のろりと重い腰をあげて、潤滑油のボトルに手を伸ばす。指先がボトルに触れたが滑ってしまい、少し遠くに行ってしまう。その際に上体を少し崩してしまい、下半身がシーツに容赦なく擦りつけられた。もう既にルーファスの性器は硬く勃ち上がり、手にしているものを今かと待ちかまえている自分をありありと分かってしまう。教え込まれたこの快楽から逃れたいのに逃れる術を知らない。記憶に、ない。
震える肢体を床につけ、ボトルを手に取りすぐさまベッドへと戻る。
普段着もそのままにブーツを脱ぎ捨て、白い汚れのないボトムスも足から抜く。下半身は下着のみ、上半身の臙脂のアウターにとシャツ、それにガントレットもそのままだなんて。誰かに見られでもしたら、せせら笑われる違いない。しかしここは自宅の、自室のベッドの上だ。誰もおらず、笑う者も勿論いない。いるはずがない。
ふう、と一息吐き気持ちを落ち着ける。自分に、正直になれと叱咤する。何をしたいか、どうしたいのかを脳裏で鮮明に描く。
ルーファスは身をベッドに預け、潤滑油のボトルのキャップを開けて乱暴に投げ捨てた。床にたたきつけられたキャップの音と、ルーファスの幾ばくか早くなった呼吸だけが、室内に響く。

* * *

スティングは依頼された仕事が早く終わったので自宅に直帰はせず、一度ギルド会館に立ち寄った。しんと静まりかえったギルド会館の大ホールのど真ん中のテーブルで、星霊魔導士のユキノが静かに本を読んでいるのが見えた。他の奴らはどうしたんだ、と尋ねると大半が仕事に行ってしまったらしく、ユキノは仕事を選び損ねてしまい、そしてスティングを待っていた。
ならば、ルーファスはどうした。最近あまり見ていないが、今日はギルドに顔を出したのか、とさらに質問を重ねる。するとユキノが頷き、ルーファス様は自宅にお戻りになられましたよ、と答えた。
そうか、有り難うと軽く礼を言うとギルド会館を飛び出し一目散にルーファスの自宅へと走って行く。
と、言うのもルーファスは仕事帰りに見つけた度の入っていない眼鏡につけ鼻のついた奇妙な眼鏡を買い、これを是非ともルーファスにつけてもらおうと言うささやかな悪戯をしたかった。
当然好奇心の方が強いが、ここ最近顔も会わせてない上に会ってもどことなく嫌味が無いルーファスは元気がないように見え、少しでも元気づけようという魂胆がスティングにはあった。……予想では、これを渡して怒られるのが関の山といったところだが。
それでもいい。彼が怒るぐらいの気力を取り戻してくれさえすれば。そう思い、気持ちが焦る。早く、彼に会いたい。
仲間としての意識からくるもの、だとスティングは思っている。実際他の仲間が気落ちしていれば元気づけたくなるものだ。別段、この感情がおかしいものでは何ら無い。
スティングの自宅にたどり着く。彼の家の扉には、整った字でルーファス・ロアと綴られており、呼び鈴が脇にはついている。スティングは突然の訪問客に、彼の面食らった顔を思い浮かべ思わず笑みを浮かべてしまう。きっと、驚くだろうな。そう思った。
「……あれ?」
呼び鈴を押しても出てこない。何度かならすがやはり彼は出てこず、思わず首を捻る。もしかして、どこか買い出しに行ったのでは。
悪いとは思いつつも、ドアノブに手をかけてゆっくりと捻る。警戒心が強い彼にはあるまじき事態が目の前で起こっている事にスティングは驚きを隠せない。ドアノブが回る、ということは鍵が掛かっていない。つまり、不用心な。おいおい、と自分にツッコミを入れつつ好奇心と老婆心がない交ぜになって扉を引いてしまう。どうやらルーファスは在宅のようで、気配とあと匂いで分かった。
しかし、ここでスティングはふと気が付く。いつもなら無い臭いが微かにある。ギルドには居ないが知っている人物の臭いと、甘ったるい人工的な匂い。どちらも嗅いだことはあるのだが、瞬時に思い出せなかった。
照明がついていないので、ここ最近の元気の無さはもしかして体調不良だったのか、と頭を掠めた。それならそれで何かを作ってやろう、そのぐらいの料理は出来るし、また元気になったらギルドに来いとたまにはギルドマスターらしく声をかけてやれると思いながら、寝室らしき扉を見つける。先ほどの玄関の戸といい、寝室といいきっちりとした性格の彼らしからぬ面が露見している。少し戸が空いている。ああ、もう寝ているのだろうか、と扉の縁に手を掛けてそっと開けようとしたその時、スティングの目に飛び込んできたのはとんでもない光景だった。
「っ……ぅあっ、ッ、あっ…、ぁっんっ……!」
(嘘だろ嘘だろ嘘だろー?!)
思わず扉を勢いよく閉めてしまいそうになるが、何とか理性を総動員させて気づかれるという最悪の状況は脱出する。まさか、仲間の自慰をみる羽目になるとは誰が予想しただろうか。普通の、竿をしごいている自慰ならまだ良かった。自分もそうやって自身を慰めるし、生理的なものなので見なかった事にしておけばいい。次の日に普通に接すればそれで良かったのに。
(ルーファス、後ろ使うのかよ……?!)
大事な仲間に対して、覗きという最低な事をしながら相手の自慰に対して些か興味を引く。とはいえ、それは趣味嗜好の範囲であるし、それをとやかく言うつもりはいっさい無かった。だから、こそ。気になる。自分は後穴を使おうなど一切考えたことは無かったし、ましてやそこに何かを挿れるだなんて考えつきもしなかった。
だが、目の前のギルドの仲間はどうだろうか。気持ちよさそうに顔はこちら背けているものの、滅竜魔導士の特徴の一つでもある聴覚の発展がこの様な事で威力を発揮してしまうとは悲しい哉。その吐息は上がり、熱っぽきを感じる。色が混じっているということは、その、つまり。
えっ、とギクリと身を硬くした。ちょっと待て。どういうことだこれは。ルーファスから目を離し、自分の股間に目をやると嫌な予感は見事に的中。
なんと、スティングの愚息は反応していたのだった。なんたる事だろうか。よもや仲間、しかも男で硬く反応するだなんて思ってもいなかった。まじか。頭を抱えたくなる。しかしその聞こえすぎる聴覚は更にルーファスの熱が上がった事をはっきりと認識してしまった。
「っあ、っ……! くっ、ッ、あっ……!」
(あああああっ、どうしてこうなんだよっ……!)
ルーファスへの土産が手から滑り落ちそうになるのをこらえて、今一度握りしめる。こんなはずじゃなかったのに。聞こえすぎるこの耳が、そして視えすぎるこの眼が恨めしい。
ルーファスの右手が何かをつかみ後穴への愛撫をやめないのがはっきり見えている。その様子に目が釘付けになってしまい、スティングは生唾を飲み込み大きく喉仏が上下する。
もう一度言っておくが今の今まで男には興味が無かった。勿論今後これからも男と寝るなんて絶対にないと断言……したい。そこまでは分からないが、今はこの罪悪感をひとまず吐き出す為に、縁にかけていた指を自分の股間に手を掛ける。臨戦態勢だ。まじかよ。興奮している自分に失望する。
ボトムスの中に手を忍ばせ、一気に下着の下まで潜り込む。鈴口は顎を向き、裏筋は血流がまして浮き出ている。この状態をローグにでも見られたら、おそらく滅竜奥義を食らわせるなどという話で済むはずがないのは分かっている。それでも止められない。
熱を孕んでいる愚息に指を這わせてゆっくりと握りしめる。視線は勿論ルーファス一点。
「っ……!」
自慰は嫌いではない。大抵の内容はグラビアアイドルの写真だったり、町ですれ違った女だったりと様々だ。男で抜くなどしたことがない。それでも今見ているのは事実で、それは確実にスティングを興奮させている材料になっているのも間違いない。
罪悪感は消えるのだろうか。抜く事に対して、其れを仲間で行う事に体して。
意に反して手は速まるばかりだった。伸び縮みする皮を上下させ、敏感な雁首を中心に竿を思い切りこする。先走りがじわりと鈴口から溢れ、運動させている手までこぼれ落ちる。
「あっ、っ、……!っ、イっ、ぁあっ、……ッ!」
恐らく絶頂が近いのだろう、道具で慰めているルーファスの手の動きが徐々に速まっていく。スティングも手の動きに併せて速めていく。
今でも罪悪感はあったし、自分が滑稽な事をしている事も分かっている。それでも止められないのが人の性で、ここまできて簡単にやめられるものでもなく吐き出す事を強いている。
「ッ、ぅ、……っ!」
「あっ、っ、…あっ、っ……やっ、だぁ……!!」
ルーファスの霰もない声を聞き、また快感から逃れようとする、その嫌がる声色がやけに艶っぽく、スティングの背筋をゾクゾクと這い上がってきた征服欲に一瞬にしてそめられてしまった。より硬度を増した自身にツッコミを入れるどころか、あの声の所為で余計煽られてしまう。
(んな、っ声出してッ、オナんなよっ……!ッ、クソ、止まんねぇっ)
止めようなどこれっぽっちも考えていない。仲間の、おそらく恥ずかしいであろう痴態を覗きながら自慰をするなんて。背徳感と絶望感と、嫌悪感と。それが良いスパイスになって、己を高めていく。
グチュグチュと先走りで手のひらが簡単に滑る。スティング自身も息が上がり、達するのにはそう時間を要さない。
声は辛うじて押さえることが出来るが、呼吸だけはどうしても押さえることが出来なかった。
「イっ、くっ……!!」
ルーファスは絶頂に達する寸前にシーツを思い切り噛みしめ、吐精したようだった。現に精液特有の生臭さがスティングの鼻についている。それを鼻の奥で嗅いだ事がきっかけでスティングも己の掌に勢いよく欲望を吐き出した。最近ご無沙汰だったのもあり、かなり色濃く出てしまっている。
はぁ、とその場にしゃがみこみたかったが状況が状況なのでそういう訳には行かず、荒い息のまま足音だけに気をつけてルーファスの家から出ていった。
土産はその場に置いて。気が付かなければいいのにという僅かな願いと、気が付いてしまえという希望も、込めて。

* * *

ルーファスはベッドに突っ伏したまま肩で息をしていた。吐精の余韻でまだ呼吸が整わず、薄く開けている眼も焦点が定まらない。
勢いに任せて自慰をしてしまった事は仕方ないにしても、この精を吐き出した後の虚しさは慣れるものではなかった。なら、誰かに慰めてもらうべきなのだろうか。ふ、と脳裏に浮かんだ憎らしい顔を振り払い、落ち着いてきた呼吸を一度大きく吸い、ゆっくりと息を吐いた。
ゆっくりと起きあがり、飛ばしてしまった潤滑油のキャップを元のボトルに填める。そのまま脱ぎ散らかしたボトムと下着を床から拾って、浴室へ行こうと考えた。
すっかり忘れていたが扉を閉め忘れていた事に気が付いた。そんなにしたかったのかとまるで自分が焦っていたかのようで、ルーファスはその場で一人赤面をする。急いでいたわけじゃない。自分に言い訳を聞かせる。
扉をあけ、浴室に向かおうとして寝室から一歩踏み出すと、妙な感覚がよぎった。
よく知った空気中の極僅かなナノエーテルの反応を、肌で感じとる。記憶の造形魔導士だからこそ分かってしまうのだが、えっ、と身を強ばらせた。
そしてこの微かに残っている臭い。いや、そんなまさか。信じたくない。頭を左右に振って、思い浮かんだ疑惑を払拭する。彼に限ってそんなこと絶対にない。そう言いきりたかった。
絶対、なんて言い切れない。でも彼に限ってそんなこと。ルーファスはそう信じて浴室へ足を運ぶ。
身を清めて、ギルドへ行こう。そして彼の顔をみて、またいつもの様にくだらない話で盛り上がってそれで。
不信感を抱かないと決め、服をすべて脱いでシャワーのコックを捻る。
すべて、流すことが出来たのなら。何もかも。
温度を感じない水の雨の中、ルーファスは声を出さず口元だけで嘲笑した。