娼婦とは異なり、男はつまらない。
女ほどしなやかでもなく、また胸や尻がなだらかな訳でもない。子を宿す器官が無ければ、勝手に濡れる訳でもない。声も太く、鼓膜を刺激するような濡れた声色でもない。至って面倒でしかなかった。過去に興味本位で何度か抱いたことはあったが、それはもう驚くほどつまらなかった。何が面白くて手を出すのだろうか、甚だ疑問でしかなかった。
今も確かにつまらないが、つまらないなりにこれはその強気でいつまでも強情で折れようとしない。だから面白かった。
これがいつか自分の手に堕落してきたら。僅かな高揚を覚えた。
もっとも、恋情と言う感情は一切なかった。そういった類いの感情は当に捨て置き、またその場限りの関係が楽だと理解してからは、特定の人物を側に置くこともしなかった。ただし、これに会うまでは。
これとは論功行賞で初めて存在を見知った。立場も違っていれば、階級も違う。興味も無ければ、目の端にさえ入らない雑魚だと思っていた。
2度目も論功行賞で会った。これは五千人将に選ばれ、ああ、そういえば前回名前を聞いたと記憶の底からこれの姿を引き上げてきた程度だった。
3度目は戦場だった。あろうことか上官の自分に刃を向けようと柄を手に取り引き鞘から抜こうとしていたが、特に咎めなかった。敵意を向けられるのには慣れていたし、むしろ一方的な感情でここまで向けられるほどの感情を持っていたのかと笑ってやりたくなった。嗚呼、これは面白いと。
これは自分と同じく下の出での癖に剣の腕だけで上に昇り詰めようとしているのを既に耳にしている。
愚直でもあり実直でもある。隊の規律にもあるらしく、隊の雰囲気は真面目一辺倒のようだ。あまり面白みがない。そんなこれを自分が抱いたらどうなるのだろうか。
それからちょっかいを幾度か掛けてみた。ちょっかいといっても、これを突然呼び出し酒を飲ませてそのまま抱いただけだ。酷く怒っていたようだが、大したことはなかった。娼婦を抱くのと同じぐらい簡単なことだ。
2度、3度と呼び出すうちに、順応していくのがなかなか楽しく、ことある毎に呼び出しては抱き、を繰り返して今に至る。
最初はあんなにも痛がっていたのに、今ではこの有り様だ。
「はっ……、あっ! ……っ、やめ、ろってば……っんん、っ!」
こちらに制止の言葉を先ほどから何度も投げつけてくるが、素知らぬ顔で腰を推し進める。前立腺を掠ったのか、上擦った声が上がり褥を掴む手が強くなり皺を深くしていくつも作っている。決して良いやもっととは言わず、しかし大抵はこれが気持ち良い時らしい。早く従順になればいいものを、決してなろうとはしないこれの姿が愉快でならない。
背を向けて腰を掴み内壁を穿つ度、意味をなさない母音が部屋に響く。表情は見せず、どういった面をしているかはわかないが想像に難くない。上体をひっくり返し無理矢理にでもこちらへ様相を向けさせるのも愉しいと思うが、上腕で隠そうとするだろう。
ぐい、ともう一押しと余念なくしこりを掠める。一際大きい鳴き声で弓のように傷跡が彼方此方にある背を反らし、褥の皺を深く刻んだ。
膝立ちになっていた腰がゆるゆると下がり落ち、ずるりとこちらの欲棒が抜けそうになる。まだ達するのには刺激が足りず、尻を軽く一度たたいてこれに叱咤する。
「オラ、もっと腰上げろ」
「ク、ソっ……!」
そう心情が反抗しても身体は至極従順で、ゆるゆると再び膝立ちになる。後穴が自分の欲棒を深く飲み込もうとしている所を見せつけるかのように腰だけを高くすると、自分の右手を添え縁をゆ爪先でやんわりなぞる。その足らなさそうに見える刺激だけでも、内壁をきゅうと甘く締め付けてきた。
「はっ、淫乱」
「違……ッ! 淫乱っ……、ぁっ……んんっ、じゃ……、! ね、あっ、」
弱い刺激だけで怒張を構い過ぎるその後穴のどこが淫乱じゃないというのだろうか。そう仕込んできたのは他の誰でもなくこの自分だ。その確かな印をつけるために、上体を屈めこれの背に近づける。快楽で赤くなった耳と、健康そうに焼けた首が目に入る。そしてしっとりと汗ばむ肩と背に顔を寄せ、口をつけて肌を甘噛みする。その刺激さえも感じるのか、身を捩りながら逃れようとするが、後孔がそうさせてはくれないらしい。
続けてその甘噛みした痕を吸い上げ、赤を散らす。独占しなくてもよかった。これが自分のものだというよりは、自分が抱いたという所有印を烙印するような感情が近い。肩から肩甲骨、脊髄へと降りていく。ようやく気が済み、上体を起こし緩く動かしていた腰を徐々に激しく肌を打ちつけていく。
「淫乱じゃ、なかったら、ッは、なんだ? 雌犬か?」
「違ェ、って……言って、あッ……、! だっ、ろ……んッ、ぁ」
自然と息が上がり、時々吐息が漏れ出す。これはと言えば、肩越しから汗で前髪が張り付いた顔をこちらに向け、三白眼よりつり上がらせて睨んでくるが潤んでいるのは隠しきれず、より自分を煽らせるだけだった。
今もなお、反抗を見せようとするその気概を早くぐちゃぐちゃに挫きたい。征服欲が油となり、欲望の火へと注がれる。
「どーだか、っ」
淫乱かどうかはどうでもいい。これの具合が良ければ尚更。盛り上げるのに吐き捨てた言葉と同時により一層深く穿つ。それの身体が大きく戦慄き、高みへと昇り詰めそうになったが耐えたらしく、大きく肩で息をしている。
腰を掴んでいた片手を離し、ぬっとそれの顔まで持っていくと、掌で顔面を触る。小指の辺りに唇の柔らかさを感じ、徐々に手を顔に這わせながら滑らして行き、中指で愛撫するように唇の感触を丁寧に楽しむ。
下唇の頂上にあてがい、ゆっくりと左右に動かし、今度は上唇へ中指でそれの唇の形をなぞる。少しだけ口が開き、すかさず中指を咥内に侵入させる。
「んぅっ?!」
「噛んだら、腕へし折るぜ」
何も言わなければ噛むであろうこれを先に牽制しておく。
それからゆっくり奥へと侵攻しそれの舌体をさすってみる。ザラザラとした感触が心地よく、何度かこすり少し指を引いて今度は上顎を撫でた。異物への反応なのか唾液が増え滑りやすくなり、舌の上を中指を奥から歯列までの出し抜きを何回か繰り返す。
歯で噛まないよう、そして必死になって中指を押し出すために舌で恐らくありったけの力を込めて押し戻しているが、こちらからしたら微々たる力でしかないので舐めているとしか捉えられず、加虐心を煽るだけだった。
「んぅ……んん、ぅう、……っんう!」
「もっと口開けろ」
数回行ったところで、今度は人差し指を増やしてみる。口をもう少し開けるよう指示し、ややあってから人差し指を差し込んでみると、黙って応じていたのかすんなりと挿入出来た。
人差し指と中指をバラバラに動かしてみる。内壁が濡れそぼっており、上の口ではなく下の口を思わすような柔らかさだった。未だに奉仕はさせたことがないので今度試みるのもありだとふと思惑が過る。上下どちらか分からない水音がぐちゃぐちゃと部屋を反響し、鼓膜を刺激する。それはこれも同じようで、音がする度びくりと背部を震わせた。
「歯、立てんなよ」
「んんッ! ……んぅっ、ふ、……ぅ、んっ」
咥内で縦横に動いてる中指と人差し指でこれの下を上下に挟む。中指で舌体の下を押さえ、人差し指で舌の表面をこすり上げる。差し詰め性器に見立て自慰するかのような動きだ。
こちらからは全く見えない。しかし、時折背ではなく腰をこちらに押しつけるような仕草を見せることがあり、性的興奮もどうやら入り交じっているようだった。
指がふやけそうになるぐらいに絶えず混ぜ続け舌を愛撫していたが、さすがに飽きてきた。指を遠慮無く引き抜き、ぬらぬらと燭台の灯りで照らされてる唾液をこれの背に誰の指が入っていて、それをどの位潤したか理解させる為に、背に塗りたくった。
いい加減生ぬるい刺激にも飽き、そろそろ昇り詰めさせようと塗りたくった方の手で肩を掴みこれの上体をこちらに引き寄せる。顔をわざとらしく耳へ寄せ舌を伸ばし、その何者にも汚されていない形を縁取っている少し厚めの耳輪に舌を這わせた。唾液をわざと多めに含ませて、よりそのさまをまざまざと見せつけるかのように、品の無い水音を立たせる。
「っ、それ、……んッ……、やめっ、舌、やだっ! 離せッ……ぁうッ、」
首を竦めて自分から離れようするが、させるはずが無い。ねっとりと耳だけを蛞蝓のように舌で這いずり舐める。耳からの刺激に弱いのは、抱いていくうちに知ったことだった。それからというもの、耳を執拗に責めるようになった。ようやくこれの耳から舌を離し、とどめを刺すかのようにほんの僅かな所まで唇を寄せる。
「信」
「っ、――ッッ!!」
囁くように名前を吐息と一緒に呼んでやれば、身体が大きく戦慄き、内壁を強く欲棒を締め付ける。どうやら快感を表現し、ちらりと視線だけ下に向けると白濁が染みとなり皺になっていた褥を汚していた。射精した為か、膝から力が抜けそうになり上体を支えきれず倒れそうになるが、自分はかまわず肩を掴みこれの背をぐっと自分の胸に引き寄せて、身体を密着させ更に奥まで肉を押し開く。その感覚にあ、という声がもれ、これの手が腰を支えている腕を掴んで抵抗を見せた。これの顔をのぞき込むと案の定先ほどの舌を犯したおかげで、口周りが唾液でベタベタになっている。それに気を良くし、腰を振りたくり自分を昂ぶらせていく。
「まだ、俺が、イってねェ」
これが達しようが達さまいが自分にとっては関係がないことだ。これを貪る間は置かず、しかしそろそろ自分も限界が近い。律動を早め、拡張を繰り返す。掴んできた腕をぎゅっと握りしめ、再び快感を拾っているようだった。
「待ッ……! 出し、ッ、……ばっか、で……あっ、クソッ……奥、ほんと、……っ! やめっ、……んんッ、またで、るっ……!」
今日一度目の吐精はそろそろ近い。だが、無論その一度だけで気が済むはずもない。日出まではまだ十分時間がある。光を失わず、未だ抗するこれに自分の気が済むまで、最後まで付き合ってもらう。
だからこの元下僕は、飽きない。
キングダム/桓騎×信