桓騎は庭にある木製の椅子に腰を掛け、大屋根の庇で陰っている場所から庭を眺めていた。
庭を見やる、というよりも呼び付けた相手を視線だけで追っている。
ゆっくり夏も近づこうとしており、陽が目映く石畳にを強く外光を照り返す。陽気がいいからと連れ出され、かれこれ半刻はすでに椅子に掛けており、別段自分自身はやることもなく酒が注がれている陶器に時折口をつけ、相手の姿を追いかけてまた一口飲む。
相手――信は格別に容姿が良いわけでもなく、抱き心地が別段良いわけでもない。手入れされてもいない黒い髪、つり上がった三白眼気味の意志の強い黒目。鼻は小ぶりで、唇は形が良かったが厚いではない。そこら辺によく居る、何の変哲も無い下僕の顔だと桓騎は思っていた。
「信ー」
「今度はなんだよ」
「この石見て」
呼び付けた相手を呼んでいる男は、自軍の伝令のオギコだった。勘だけは誰よりも鋭く、やることがまずまず面白く自分の側に置いている。今日は信が来る、と言うことを聞きつけて自分の邸第にやってきた。
信を誘い庭の隅にまとめられている石の山を二人してなにやらかき分けているのが見える。成人した男が石を見て何が楽しいのか桓騎には分かり兼ねたが、気が合うところがあるようであっちにいったりこっちにいったりと忙しなく動いている。
「この石犬っぽくない?」
「そうかぁ?」
声が大きい二人の会話はこちらに筒抜けで、首を傾げているような仕草が見て取れた。
元来、信はよく喋る。黒羊丘でもこちらの挑発へ啖呵を切りそこそこの働きを見せた。それから自分の目に止まり、呼びつけては抱きを繰り返し、今に至る。恋情なんてものは一切なく、こちらに常に敵意を向けてくるその行動が滑稽で興味を引いただけだった。
今思えば笑った顔をそういえば見たことがない。ここに来るとそもそも笑わせるようなことがないので、そういった必要は全くないのだが、恐らく己の隊にいけば馬鹿な話をして破顔させるのだろう。それはよく分かっていた。
呼びつけるのは決まって自分。相手から一度も呼ばれたことがない。呼んだところで自分は無視するだろう。会いに行くなんてことがあるのだろうか。疑問にさえ感じる。
「お頭ー」
「んー」
思案の海に揺蕩っているところ、オギコが無理矢理這い上がらせた。楽しげなその表情に目を多少なり細めて、返してやるとこれ、と手に持っていた石を見せてきた。後ろから信が走りながらオギコを追いかけてくる。日差しが強く鳴り始め、太陽光がざっくばらんに切られた前髪が額に貼り付き、きらきらと反射してこちらに乱反射しているのがよく分かり、発汗しているようだった。
「犬みたいじゃない?」
「興味ねェな」
鼻だけで笑い、一蹴したがもちろんこの伝令にはどこ吹く風で見せたことに満足したようでこちらの返事も聞かずさっさと先ほどの石山へ戻って行った。
遅れてやってきた信は木製の机上に乗っている竹筒を手にし、水分を補給するために飲み口へ口をつけ、勢いよく水を流し込んでいる。上に向けて飲んでいる為、嚥下する度に喉仏が上下に動く。その様を桓騎は横目だけで盗み見ていた。薄い皮膚から健康的に落ちてくる珠のような汗が、それを思い出させた。
「あっちー」
大きな独り言はこちらに聞かせるつもりでも何でも無く、今の状況として口に出されたものであり、桓騎にはもちろん何の関係もなかった。
こちらが相手を垣間見ていることなど勿論知らず、上腕でこめかみから伝う汗を拭い、その左手で左襟を掴んで火照った身体を多少なりとも冷やす為にぱたぱたと上下に揺らした。信のいつも来ている麻の青染めの一張羅は心許ない生地なので仰ぐ度素肌が見え、その奥の色素の薄い突起が見え隠れする。
信の一連の無意識の行動に無性に苛立った。桓騎は一度陶器を机上に置き、眉根を寄せて一度冷静になろうと視線を庭に向ける。信が自分をどう思っていようが、些細なことだ。呼び付けて抱く、それだけは今後も変わらない。ただ、相手は褥は一緒にする相手だということを何一つ分かっていない。机を指先で叩いてみたが、気が紛れるはずもなく。
遠くで帰るねーと大きな声で伝令がこちらに手を振っていた。伝令の相手をしていた信が大きな声でまたな、と返事をする。桓騎も机を指で叩いてた方の手を軽くあげて、返事とした。庭に鳥の鳴き声と風で葉が擦れる音が響く。信は塀の門まで伝令を見送ると、こちらに駆け足で戻ってくる。普段よりも足取りが軽いらしく、続けて軽口を叩いた。
「オギコって変なやつだよな」
こちらに近づいてくると歩速をゆるめ、両手を後頭部に組み机の向かい側へやってきた。自分と接するときとは違い不機嫌そうな態度は消え、幾分自然体で気持ちが緩んでいるのであろう、口調が硬くない。桓騎は陶器を手にし一口酒を煽る。
「お前よりは使えるぜ」
「んだよそれ」
桓騎が思っていることをそのまま口にしたが、信にとっては冗談に聞こえたらしく、ふはと笑い声なのか息をついた音か分からないような音が聞こえてきた。
いつもならさほど会話をしない。酒を煽り、ただだらだらと情交を行う関係だからだ。それ以上もそれ以下も求めていない。どういったわけか、先ほどからの苛立ちはどんどん募るばかりで、行き場のない感情が渦を作り始める。
桓騎に普段は見せない、打ち解けた表情や仲間にとる態度をまざまざと取られ、桓騎の目から急激に温度が下がった。この関係に感慨というものは全くと言っていいほど必要がない。
桓騎はがた、と椅子を引いおもむろに立ち上がり、立ったままの信の上腕を断りなく突如掴んだ。ぎょっと瞠目して信は驚き制止の声を上げたが桓騎は歯牙にもかけず、邸第の室ではなく邸第裏へと大股で歩みを進めていく。
「痛ェって! どこ行くんだよ」
「黙ってろ」
信の痛がる声をよそに、自然と握っている腕の手に力が籠もる。今日はどうやら室で交情を行う気分ではない。どこまでも気を追いやり、己しか見えなくしてしまいたい。その征服欲に掻き立てられていた。石畳から土へ変わる、外構が整えられていない裏手側まで来た。裏側は一面漆喰壁となって室の扉がついていないので、よっぽどのことが無い限り使いの者でも何かをしにこちらに来ることはない。丸瓦の小屋根との日陰になっており、外塀との間もままある。
「後ろ向いて手、突け」
「はぁ?」
足を止め、信の腕から手を離し顔も見ず、言いつけた。案の定、信はここまで連れてこられた理由を知らされず眉をひそめながら胡散臭そうに短く聞き返してきたが、そんなことはこちらの知ったことではない。ちらりと視線だけで信を見ながら顎で壁へと指し示す。否定をさせるつもりは毛頭ない。
はぁ、と自分を恨めしげに見やりながら大げさに肩を落とし、訳が分からないと言いたげな背中で信はしぶしぶと桓騎の命じた通りに従う。白い漆喰の壁に手を突き、背後を桓騎へ向けた形となった。
その従順な様を桓騎は腕組みをしながら特に感情も無く眺める。これから起こるであろうことは信には一つとして伝えていないからだ。口元だけでほくそ笑んだ。
腕組みを解き、信の腰を指先だけで触れる。その羽のような擦り方に、信の肩が大きく揺れ、肩越しに自分の顔を見やるが、気にもとめず手を這わせた。
「ちょ、外でやんのか?!」
「おせーよバカ」
ようやく事態が掴めた信の異議は聞き流しそのまま肋骨、脇へと進めていく。大きく動きやすく開口された襤褸服の袖口に到着すると、そこから素肌へ力の込められていない胸筋に手を滑らせていく。傷が多いとはいえまだ胸筋は鎧で守られており、肌触りも滑らかだった。それから皮膚の薄い鎖骨の感触を、そして信の感度をゆっくりと高めていくため何度か指を滑らせ、徐々に胸へと掌を降ろしていく。ん、と鼻に掛かったごく小さな喘ぎが聞こえてくるが、桓騎はそのまま続ける。
力を込めていなかった指を多少広げ、胸の中心へと近づいていく。なで回したその先にあった胸の突起をまずは軽く掌に押し当てた。まだ乳頭は硬くなっておらず、柔らかいままだった。同じ調子で幾度か上下に突起を弾く。壁に手をついてどうやら声を抑えているのか、掌が突起を掠める度に、背がぴくんと小さいながらも反応はしてみせる。
呼び立てた当初は乳首で感じることが無かった。何度か呼び付けて交接するうちに自分の手で開発していき、それが快感だとじわじわと染みこませていることに快く思っている。
掌で転がすように大きく弾くのをやめ、いま与えている快感を間違いなく教え込ませたのは自分だと分からせるように、親指と人差し指で突起を丁寧につまみ上げた。途端、声が抑えられなくなったのかやや大きい喘ぎが聞こえてたことで気を良くし、桓騎は喉の奥で一笑する。
「乳首、いいのかよ」
「っ……外、ほんとっ……、ッやめ、……ぁっ、! ……明るいっ、から、……ッ!」
自分の問いには答えず、信はこの期に及んで未だに外でこのような淫らな行為を行っていることの方が気になるらしく、片手を壁から離し逆手の形で桓騎の衣服をやんわり掴み、緩くだが抗議が行われた。信の顔を見やるためちらりと視線を寄こしてやるが、突起を軽くつまんだだけで瞳が潤み、頬がほんのり上気しているのは本人が気がついているはずもなく、むしろそれは誘いにも似ている懇願だった。外が明るかろうが暗かろうが、やることは一つだ。むしろ桓騎をその気にさせたことに気を良くし、背中を平らにさせて顔を耳に寄せ、吐息と共に囁きを甘く流し込む。
「関係ねェし、やりてーからヤんだろ」
「ッ、……! ァ、ふざッ、あ、っ……! っ、けんなって……マジで、っ……」
抗議していた信の指に若干強い力が込められ、緩い力で掴まれていた衣服にシワができる。衣服に絡まっていた指を一本ずつ外し、わざとらしく手を握り壁に手を突くよう戻させた。平然と腕を戻し再び乳頭に触れ始める。突起をゆるく弄っていた指は乳頭の先を人差し指のつま先でカリカリと何回か往復する。その度に腰が揺れ動き、さらなる刺激をどうやら求めているらしい。しかし、しばらくはこの状態で弄ばさせる。
乳頭を刺激していた爪先をやめ、今度は人差し指の腹で優しく撫でるように擦ってやる。指を動かすと、信の後頭部で揺れる短く結われた筆のような毛がパサパサと揺れ動いた。素直に反応している身体とは違い、信の意思は迫りくる快感をやり過ごそうとしているのか、そうさせるつもりは全く無い。
今度は幹を掴み、中指の爪で素早く左右に引っ掻いてやる。その快感を待ちわびていたかのように一際大きく背が揺れ動き、掌で白壁をついていた手の形が、握りこぶしになって気持ちよさを訴える。
「ぅあッ……、乳首、っ! ……っとに、やめろっ……て、」
片手は幹をいじる手をそのままに、もう片手を襤褸服の袖口から手を引き抜き、自分の顎まで一気に引き寄せる。片方だけでも十分なぐらい快さを与えているにもかかわらず竦めていた首を伸ばし、背中ごしでこちらの顔を眺めようと振り向いてくる。そんなに焦らなくてもこれから充分与えてやるというのに、無意識で求めてくるのだからたちが悪い。
桓騎は指先を口内に含み、唾液で指の腹を濡らす。直ぐさま再び信の襤褸服の袖口に手を突っ込み、乳首をつまみ刺激してやる。指先が乾いた状態とは違い唾液のぬるつきのおかげで滑りやすく、指先でひねるように指を動かし根元を刺激してやると、先ほど与えていた刺激とは違うらしく、拳に力が込められているのが分かる。
「っあ、……! それ、っ……、ひッぁ……!」
「そんな声で言っても、説得力ねェな」
すっかり蕩けた声で拒否されても、継続の意としてしか捉えられない。中指と親指で根元を扱き、人差し指で乳頭をカリカリと二重で責め立てる。身を捩り、逃げようとするがどこへも行けず、声を出すしかない信にうすら笑いが浮かんだ。
そろそろ下履きの中の欲棒へと血が昇るってきているのが分かる。信の息づかいや、どこまでも素直な身体の反応が脳髄を刺激する。袖口に入れていた両手を引き抜き、信の下履きへ手を掛けて一気に下へ引き下げる。下半身があらわになり、その陽があまり当たらない股の健康的な肌の色がやけに目に入ってくる。戦場を駆け回るその肢体にはまだ未発達な筋は力が込められていない。
突然外気に触れたことに驚いて信が首を伸ばし顔をこちらに向けてきたが別段気にもとめず、今度は自分の衣服の帯を若干緩め下履きを軽く下げて怒張を取り出す。信の中へと埋めたい欲は多少なりともあったが、今日は趣旨を変えてみようと思い至った。
「んな、……挿入れん、っなら、」
「今は挿入ねーって」
「?!」
「股閉めろ」
未だに室に行きたいと駄々をこねる信をよそに、桓騎は陰茎を信の大腿の間へ挿入ていく。信の性器が今しがた突起に与えていた悦楽のおかげで既に起き上がっておりべっとりと濡れた性器に沿わせ、ズルリと信の陰茎に滑らせていく。打って変わり直接的すぎる刺激に信の肩が見違えるほど戦慄く。
「っ、うぁ、やめ、」
女の股なら何度かやってみた事あるが、ただ柔らかいだけで面白みがなかった。擦れるものがあるとこんなにも違う。好奇心が興奮へと変わるのが手に取るように分かった。信の性器を亀頭で扱き、一気に袋まで滑らせる。その度に透明な先走りが涙し、油の代わりになり果て余計に股の滑りを良くしていく。腰をぎりぎりまで引き抜き、また一回り小さい信の陰茎を遠慮なく擦りあげた。信がひぅ、と小さく上ずった悲鳴をあげたが腰を臀部に叩きつけ再び勢い良く擦り上げる。
「やだって、……ッぁ、くそ、! いい加減にっ、……あっ、しろ、ッ……んっ、……って! 声、……出っからっ、……!」
「お前が声押さえてりゃ、何の問題ねェよ」
いつまでたっても手向かう信にしびれを切らし、小さく舌打ちすると掴んでいた腰から片手を離し、長い腕を信の顔まで伸ばして、人差し指と中指の腹で唇をなぞる。そして、無理矢理二本の指で歯列をこじ開けた。ざらりとした感触、そして柔らかく、先ほど庭で伝令と遊び終わった時に見せた赤く扇情的で健康な舌を無理矢理押さえつけた。
「んん?!」
自由に声が出せず、信から不満げな声が漏れるが、桓騎はその状態で指をバラバラと無造作に動かし咥内を犯していく。信が必死に舌で抵抗しようと試みるが、桓騎にとっては指を舐めているとしか捉えられず、より気を良くした。桓騎の中指の側面を舐め上げて押しのけようとしているが、愛撫にしかなっていない。体格が幾分大きい分、指もその分長く太いので舌の動きが多少ぎこちない。それがより桓騎の加虐心を擽る。
「ふぅ、! んっ……んんぅ……ッ、んう、……ッッ」
もう片方の手で襤褸服の裾をめくり、信の臀部を露わにしていく。後門がひくり、ひくりと何度か蠢いているのが目に入り、親指の腹を這わせるとそれを待ちわびていたかのようにこちらを誘うように飲み込もうとしていた。勿論、無意識なのだろうが、さすがの桓騎もこれには喉を鳴らし、何度か親指を上下に動かしてみる。ぱくぱくと後穴がひな鳥のように親指を欲しがり、挿入を唆す。時折、内壁がみえるが赤く熟れた果実のようだ。親指の腹で入り口の襞をなぞり、それから浅瀬を数回指の腹で擦ってやる。必死になって親指を飲み込もうとしているその様子は、そこが排泄口ではなく、女の持つそれと錯覚させた。
「しっかり、欲しがってんじゃ、ねェか」
「あっ、……んなッ、! んじゃ、ねェ……って、ぅあ、!」
後孔を弄っていた手は脇腹を掴み腰を無我夢中で打ち付け、そろそろ高みへと駆け上る。呼吸が徐々に浅くなり、雲の上に浚われたように早く解放を願う。
桓騎は低い声で喉を絞めながら競り上がってきた精を解放し、地面へと吐精した。信の陰茎へと残りを塗り込むように何回か擦りつけ、それから太股から欲棒を引き抜いた。
日陰とはいえ、陽の光は燭台よりも強く出した体液をてらてらと反射させている。信も軽く達したのか、青い襤褸服が上下しているのが目に映る。
吐精したことにより霧が晴れてはいるがまだ足らない。白壁を掴むのが辛くなってきたのか、これまでの責め苦で膝が笑い、へたり込もうとしている信の腕を掴み引き起こして脇に抱える。信のほうも一回で済むとは思っていないようで、先ほどまでの抵抗はほとんど見せなかった。
「っ、おい」
声がする方へ視線を寄越すと、未だ息が上がり肩で息をしながら、上気した信の頬と上目で睨み付ける信と目線がぶつかる。返事はせず、次の言葉を待った。
「ッ……、早く、……ッハメ、ろよ、……クソ桓騎」
「誰にもの言ってんだ、クソ下僕」
思わぬ言葉にその場で笑い出しそうになったが、喉の奥でこらえ買い言葉を投げつける。桓騎はここでようやく庭で感じた苛立ちの原因が分かり掛けた気がした。この元下僕が思い通りになるのは、なんと心地よく愉快なのだろうかと。
足に力が入らない信をずるずると抱え、売られた言葉を啼いて取り消させるぐらいには抱いてやろうと桓騎は自然と広角が上がり、日光が遮られひんやりとする室へと消えた。