※桓騎×信
※桓騎視点




 桓騎はただ一人、思考に耽っていた。随分と長く国を一つ落とそうとしているが、勝負がつかず兵にも披露が見えていることは既知だったが、休ませたところで滅ぼせる訳もなく隙間をみて休んでいくしかない。将それぞれが独立した軍をもち、作戦を遂行させる。それが戦の基本だった。目の上のたんこぶとも言える趙の軍師をどうにかしなければこの後も延々と戦う羽目になる。どれだけ長く続こうが関係ない。相手の首を捕れば勝ち。至って単純だ。
 それまでの手筈、そして準備に尤も時間をかけ戦術を読み合うなどという駆け引きは嫌いではないがそれよりも相手が無様に死の間際に命乞いする姿という醜態を晒し、首を跳ねる。読み合いに勝ち、それを何とも思わず次への階にするだけだ。
 木製の胡床に腰を掛け、明日から攻めるのであろう城郭の方向へと目を向ける。既に日は落ち、雲一つ無い快晴の空は星々が瞬いている。眼前には森林しか映らず、それが渡河をしたほの暗い川底のようにも思える。時々頬を撫でる風が葉を揺らし、鳴き声にも似た葉の擦れる音が耳に届いた。
 几にある酒器を手にし、一口付ける。城に残っていたであろう米の酒は不味くはないが上手くもない。相手の将の首を捕り、軍での祝杯を上げた時の方が甘味を感じるのは気のせいではないかもしれないと桓騎は思った。
 目を閉じる。過去の事が思い返され、好き合い抱いた女の顔が思い出される。今はもう遠い過去だ。あの時のどうしようもなく表現の仕様の無い悲憤を肚に据え、ここまで生かされている。軍の者達は嫌いではない。ただ、好き合っている女とは全く異なった感情だった。
 降ろしていた瞼を静かに開けると、地上へ向かう階段から足音が聞こえて来た。具足同士が触れ合う鈍い音が時折聞こえる。既に他の兵は明日に向けて寝ている時間であろう、呼び出されわざわざ足を運んでくる者がいるとは。桓騎は声を漏らさずほんの僅かに口角を上げ笑う。
「寝てーんだけど」
 階段を登り切り、第一声が不満だった。この背後に立ち桓騎を将軍として敬っていない男こそ飛信隊の隊長信で、いつも不平から始まる。顔を合わせる度に何かと桓騎は構うがその度に信は桓騎に噛みついて喚きながら去って行くのが常だった。相手は出来るだけ顔を合わせたいどころか、心底自身の存在を憎んでいるらしい。背後にいる男らしいとしか思えなかった。
「眠ってればいいだろ」
「伝令を寄越してたたき起こしやがって」
 桓騎は信へ振り向かないまま言葉を発する。また一口酒を煽ると信がわざとらしく具足の音を立てながら桓騎の眼前に立ちはだかった。星空と森林と自身の間に、信が立つ。桓騎は目を伏せ、口端を持ち上げながら信の文句を聞き流す。
「だろうな。俺がたたき起こしてでも連れてこいと言った」
「ふざけんなよ。明日」
 相手が何かを言いかけると桓騎は手首を掴み信を引き寄せる。信が咄嗟に掴まれた手首を振りほどこうしたが力を込め、桓騎はそれを許すはずがなかった。
 振り解けない手首を一度見やりその角度のまま信が視線だけで桓騎を睨みつける。
「ただで帰すと思うか?」
「李牧達が攻めてくるって時に、テメェ」
 これから何が起きるかは既に相手も想定の範囲だったとでも言いたげな口調を桓騎に向けられた。無論、ここまで呼んでおいて何もせずに帰すのはあまりにも口惜しい。僅かな時間ではあるが少し遊べればと思い信を呼び出した。予想通り、ここまできた信に呆れを通り越して素直としか呼べないその性根は出会った時から変わらず、ずっと呼び出しに従ってきている。部下でもなければ今回は脅しでもない。来なければそれまでだと思っていた桓騎は、喉の奥で笑いを押さえつけ、真正面を見ていた顔を信へと向けた。
「だから、抱くんだろ?」
「何がだからだ、クソ桓騎」
 信の表情がそれとこれの意味が通じていないと訴え、眉根を寄せながら桓騎を見据えていたがそれ以上は口を開かずこれからの展開を受け入れたようで桓騎に力を掛けられないようにするために強く握られていた拳を弛め、手首を弛緩させた。その僅かな好きを狙い桓騎は先ほどよりもさらに近くに信の手首を引き、自身の眼前へと顔を寄せさせる。信が上体を崩れさせ、鼻と鼻がこれ以上にないほど近づいた。日頃より土埃と汗にまみれている浅黒い日に焼けた顔は水だけで軽く拭かれたのかそれなりに綺麗になっている。激しい戦闘に見舞われ、隊の先導で士気を上げ先陣を切っていくその姿は噂でもそして今回の戦でも幾度か目にしている。まだ直りきっていない浅いかさぶたへ親指の腹を沿わせ、その傷跡に沿って撫でてやると信の肩が僅かに跳ね、瞼に力を込め片目を瞑る。でこぼことした治りかけの傷と、ようやく成熟しかかっている肌の柔らかさを交互に愉しみながら頬の奥まで親指を滑らせていく。
 耳たぶの付け根をゆっくりと玩び何度か前後させる。以前から耳を責めてやると身を捩って逃げようとするところが信にはあり、桓騎は耳も性感帯なのだと覚え込ませるために何度も舐り耳の穴をなぞりながら幾度か高みへと昇らせた事がある。
 身体が覚えているのだろう、耳たぶを微かに触るだけでも反応を返す体に信は恐らく思考が追いついておらず、肩を小さく反応していることに自身でも気が付いていないようだった。
「耳、好きじゃねェ」
「それはお前が、え気がついてねェだけだろ」
 桓騎は信の言葉を受け取らず、親指の腹は耳の裏へと上がって行く。皮膚の薄い裏側は耳垢がたまりやすく、湯浴みをする際に下女や娼婦に外耳を愛撫されながら丁寧に洗われる場所だった。そんな経験はないであろう未だ初な反応を見せる信の耳の形を象るように丁寧になぞる。縁の方が敏感になっているのか、指を上下させると鼻にかかった甘くひっそりした吐息が零れる。声が漏れた箇所を重点的にさすってやると、今度は両目を瞑って顔を少し俯けた。身体に熱が集まってくるのが反応で分かる。
 徐々に隠れきっていない首筋や相変わらず触れている耳輪が赤く染めあがり、信の体温を上昇させているのが見て取れ桓騎は気を良くし、ついに孔の縁までたどり着いた。孔をなぞりそれからやっと耳から手を離した桓騎は信の様子を瞳の奥でひっそりと伺う。丁寧過ぎる緩やかな愛撫に物足りなさを感じているようで、指を放してからも肩を小さく震わせ、次の刺激を待ち構えているようだった。
「外せ」
 何を、と多くは言わずとも分からせていた。この三年程趙の北部の城を落としながら転々としている間もこの目の前で快楽を待ち構えている男を呼び出しては抱いていた。長いときでは半年ほど期間が開き、それでも呼び出せば顔を出すということは快感を忘れられないのだろうと桓騎は思っていた。気持ち良いことを覚え込ませたのは他でもなく桓騎自身で、身体を弄ばれているのにも関わらず快感に蹂躙させられている信に思わず笑い声を出したくなるが、桓騎はどうにかこらえた。
 手慣れた手付きで具足が外される。戦場にいる時はほぼ付けている具足が外されるのは眠る時か飼っている娼婦達を抱く時ぐらいだろう。自身で取り外す訳でもなく大抵控えている従者か娼婦にさせ桓騎は行わない。信にさせるのには今から自分が抱かれると言うことを覚え込ませたからであり、当初は外で抱かれるとは思っていなかったらしく、時間がかかったりもしたが今はほんの僅かな時間を待っていれば良かった。
「もっと淫猥に脱げねェのか」
「いんわい? ……って、テメェの言うことだからきっとろくでもねェんだろ」
 色気とは程遠く、それでいて抱かれる時は酷く扇情的になるのだから信自身は自分の身体の様子を分かっていない。桓騎から与えられる快楽をただ享受し貪っているだけ、としか考えていない。
 抱かれる時に不必要な脛を当てている青銅の具足以外は全て壁に立てかけて置き、桓騎の目の前に再び立つ。
「これでいいんだろ」
「いつまでも待たせてんじゃねェよ、元下僕」
 名前を呼び合う関係だとは一つも思っていない。口を開けばバカ、下僕、お前。このどれかしか使わないようにしていた。理由は幾つかあったが、その一つに下に見ていることが上げられる。元下僕でここまで這い上がってきた人物。実力はあることは分かっているがあまりにも甘ったるい行動で軍を動かしている。略奪、陵辱、殺戮。軍の指揮を上げるのには必要な事で、また中にはそれを楽しみにして生きている者も多々いる。そんな些細で戦争には付き物を楽しんでいない軍を桓騎は侮蔑の目で見ている。そう言った生き方を今まではしてこられた。これからは違うと目の前にいる男に、現実を突きつけたいと思っているからこそ名前で呼ばない。
 桓騎は竹編みの腰掛けから立ち上がり信の目の前に立ちはだかる。一切反らそうとしない意志の力強さを感じる黒い眼を桓騎は底まで舐めまわすように視線を交わせた。
「反らさねェのな」
 そう呟き桓騎は信の首筋に顔を埋める。そのまま後ろに数歩歩かせ腰までしかない見張り台の壁にもたれ掛かさせるよう、桓騎は少し体重をかける。代わり映えしない空色の襤褸服の襟をめくり、陽に焼けた首筋を舌先で下から上へと舐めあげた。首筋の筋が緊張からか少し強張りを見せるが髪の生え際をなぞるように舌を這わせ、今度は上から下へと戻ってくる。皮膚が薄く、先ほどの耳とはまた異なる感覚なのか鼻にかかる吐息が耳に入ってくる。
 首筋の根元まで戻ってくる。桓騎は犬歯を立て、信の首元に血が滲むまでは行かなくとも明日にはぶつけた時のように青く痣にはなるぐらいの強さで噛みつき、歯型をつける。
 当初は痕をつけることなどしなかった。身体を暴き、不機嫌にしてしまうだけで良かった。その後も関係は続き、痕をつけると後日劣化の如く怒るのがあまりにも愉しく、その後は必ずと言っていいほど交接の時は見えない場所へ幾つも痕を付けた。ここ最近は諦めたのか怒りはしなくなったものの、着ける度に咎め口先だけでは付けるな、と拒絶を一応は見せていた。
「っ……止めろって、いつも言ってんだろうがっ……」
 壁に体重を受け止める為に支えていた片手を胸へ押し当てられ、身体を引き剥がそうとする。信にとって痕を付けられることは気に食わないらしく、やはり否定の意を見せた。
 桓騎は首筋を嬲っていた唇を放し、屈めていた膝を立てて信の耳へと唇を寄せる。指で弄っていた性感帯に再び軽く歯を立て、舌をなぞるように這わせた。わざと品の無いぐちゅりという唾液を泡立たせる音を立て、ねっとりと舐めあげると信の唇からたまらず熱い吐息が漏れ出す。耳の穴の近くまで丁寧になぞり、音を聞かせてやると股を擦り合わせ耐えられないと身体が訴えかけ始めていた。
 桓騎は片手を信の下腹部に手を添え、直接触れず腹部を優しく撫で回した。男に孕み袋など当然ついていない。これから内の臓に己の肉竿を入れるという合図に近いようなものだった。
 その手を徐々に熱を持ち始めている半身へと降りて行く。まだ襤褸服を全て剥ぎ取っていないが、すでに肌は体温が上がり、下に行くにつれその熱を掌で感じ取ることが出来る。所詮、禁欲していると言っても本能には逆らえない。信の懸け隔てぶりに桓騎は密やかに口角を持ち上げ笑う。
「後ろ向け」
 桓騎が僅かな隙に前後を反転させる。背になった信の表情は見えなくなるが、返って好き勝手が出来、好都合な格好だった。広げられた襟元の後頭部の付け根と耳の後ろは朱く染まり、羞恥と興奮、そして期待を物語っている。
 腰に手をやり止めている帯の整えられていない結び目はあっさりと解かれ、床へ落とすと桓騎は信の肌へとすぐさま手を滑らせた。女のきめ細やかな白井肌とは全く違う肌質は妙に癖になる。高揚し体温が上がっている肌は僅かに汗ばみ、掌に吸い付いてくる。戦場にでる度に焼かれる肌は浅黒く、しかし冬場にはまた白く戻ってしまうため真っ黒というほどには焼けていない。出会った時の幼い顔つきからすでに四年という月日が経過し、青年へと成長をした信の肌は完成されているとも言えた。
 下方から胸へと這い上がり、盛り上がっている筋の溝をなぞる。力が入っていないそこは女の乳房とは異なった弾力を持っている乳となっており、突起はまだ反応をしておらず密やかにうずくまっていた。
 指の先で擽るように乳輪をくるくると描く。肌との縁を丁寧に滑らせ、周りの粒々した突起をなぞっていく。信の肩が小さく揺れ動き、快感を拾っているのを確認出来たところで桓騎の人差し指の腹が胸の突起を優しく押さえた。
「っあ……!」
 触れて欲しかった箇所に触れられ、信が声を大きく漏らす。その声に自身も驚いたのか慌てて片腕で口元を押さえたようだった。既に声にしてしまっているので押さえても意味は無い。
「意味ねェだろ。声出せ」
 信が首を横に振り、短い小動物の尾のような結ばれた髪をぱさぱさと音を立てながら否定をする。
 性行の際、決まって信は声を出そうとしなかった。極限まで押し殺し、何度か達してからようやく声を出そうとする。感じているのだから恥ずかしい事ではないと何度も言い聞かせているのにも拘わらず、首を振り否定する。その押し問答のやりとりを重ねても、信は頑なに拒絶をした。声を聞かれる事の方がよっぽど辱めに思えるらしく、桓騎はその度に声を上げさせようと丁寧に解して行くのが楽しいと思えた。回数を重ねれば流石に声も上げ出したが、場所が変わると一気に成りを潜めてしまい、また一からとなる。信は青年であるのにその心根の所為なのか、生娘のような反応をするのがまた面白みを感じた。
「人、来るかもしんねェだろ……!」
「見られんのがそんなに嫌かよ」
「嫌に決まってんだろっ、誰がテメェとヤってるとこなんて」
 他の者なら構わない、と言った言い草なのだがおそらく言葉を発している本人は全く気がつかず、思いついたままの言葉を口にしている。桓騎は勿論それ以上は追及せず、肩越しで睨みを聞かせている信と視線を合わせ、不意に目を細めながら薄く笑った。
「んだよ急に」
 気を良くしたとは言えず桓騎は返事の代わりに礼とも言えるような快楽を授けるべく信の胸の突起を強く摘まむと、信は交情の最中だと思い出したかのように背をしならせて肩を跳ねさせる。
 桓騎は人差し指と親指で既に芯を持ち始めた突起をつまみ、人差し指の爪の先で乳頭を上下に弾くと信の頭が左右に振りかぶり快楽を逃そうと必死になっていた。
「っ……止めろっ……」
「止めてもいいが、一人寂しく慰める声を他の奴らに聞かれてもいいならいいが?」
 内腿を擦り合わせ、下半身に熱が集まらないように気を紛らわせているが身体の反応はそう簡単に許してはくれない。下履きの中で身を徐々に硬くし始めているであろう陰茎を一人で寂しく慰めるまではよいものの、明日の作戦の為に数少ない室を折り重なるように眠っている兵士達の中で慰めるのはあまりにも惨めでその羞恥に耐えられるほどこの男の心は強くない。自制心がきいているからこそ、ここで発散させてやっているのが恐らく信には分かっていないようだった。
 信が発した言葉に否定が出来ず、唇を噛み締めていると桓騎は再び乳頭を擦り合わせるように指を動かし、幹へ刺激を与えていく。
 今まで幾度も抱く度に教え込ませてきたこの乳首は桓騎が指を触れるだけで途端に反応するようになった。あっさりと快楽を拾い、肉茎を硬くさせていく。普段性の香りとは真逆の位置にいるこの青年が自身の指だけで乱れるのはあまりにも愉快だった。
 桓騎は両手で行っていた愛撫をやめ、片手はそのままにもう片方はゆっくりと鳩尾、腹筋へと下って行く。中央の溝をなぞり、皮膚が薄くなる臍を中指の腹で数回さする。その小さな快感にも反応するのか、こちらには聞こえるか聞こえないほどの小さな喘ぎで反応を示していた。
「っ……ぁ……」
 波に呑まれないよう、時折背を伸ばして自分を律するが桓騎の指が這わされることにより直ぐに腰が小さく揺れ動き、理性がとろりと溶けていくのがわかった。臍の下にある薄い筋の溝をなぞりまだ解いていない胡服を留めている紐の結び目を解く。
 床へあっけなく落ちていく紐と胡服は信の足首にまとわり、その場から動けなくするのには十分過ぎる拘束具となって桓騎は下履きへと手を伸ばす。麻で作られた、大衆用の質感が質素な下履きは既に前方を先走りで濡らし信の陰茎を心許なく隠しているだけだった。手のひらで覆い被せるように信の下着の上から肉竿を握り込んでやる。既に勃起し窮屈そうにしている肉茎は今にも暴発しそうなほど熱い。向けられている背に自分の胸を押し当て耳元へ顔を寄せる。先ほど舐めていた反対の耳へ舌を出し、全体を甘く含んでやりわざと水音を出しながら舐めてやる。信の臀部が桓騎の陰茎に辺り、無意識に左右へと擦られた。未だ反応はしておらず垂れ下がっている桓騎の肉棒は僅かに反応を返すが面白みはあまりなかった。
「んんっ……っ、……はっ……、ぁ……」
 桓騎の手が上下する度に甘い吐息が零れ落ち、また耳の水音から回避しようと首を振るが桓騎は耳を食んでいる唇を離さず無理やり耳の奥へと唾液を泡立てる音を届けてやりながら陰茎をさするのも忘れていない。手のひらでは飽足らず、人差し指と中指の隙間を使い側面を麻布の上から刺激してやる。信の腰が緊張し、立っているつま先を立てて快楽から逃れようとしている。ぐちゅりと一段と大きく卑猥な音を耳から出し、少し強くさすってやると頭を丸めてやり過ごす信に桓騎は目をやる。
「一遍、出すか」
「っ……まだ、っ、出さねェ、……からっ、んっ、……そこッ、触んなっ……ふ……、っぅ……」
 丸めた頭部を戻し、息を絶え絶えにしながら返事をする。言葉だけ聞き桓騎は腰で結ばれている下履きの紐を外し、床へ落とすと今度は直接握り込んだ。
 陰茎ばかりを可愛がり突起への刺激が疎かになっていたことに気がつき、二つの指で手前に少しだけ強く一度引っ張り快楽を引き寄せる。
「ぅあっ……!?」
 信が強めの刺激に少し驚いた声を上げ、桓騎は突起から指を離した。その指を上に持ち上げおとがいに指を掛ける。
「舐めろ」
 人差し指の腹は信の唇のなぞり、指が入るという合図をし薄く開かれていた口を開けさせてから人差し指と中指がゆっくりと滑り込んだ。下歯が指の節に引っかかる。そのまま口腔の奥へと侵入すると生暖かい吐息がかかり熱を帯びている舌の上に指の腹を置いた。二本の指でざらりとした感触を楽しむように擦り唾液を出させるように舌へと促す。少し指を引き舌先を指で挟むと下になっている指に溢れ出した唾液が絡みついてくる。舌裏を爪で刺激してやり、手淫に見立てられた舌への嬲りはゆっくりとした指の動きに追い立てられ信の舌は逃げたくても逃げることを許さず、少し強く舌根を引っ張る。
「んうぅっ!」
「痛ェのはお互い嫌だろ?」
 信は横に首をふり、舌先を弄んでいた指を離して再び奥へと突き入れた。上顎の粘膜にふれこの指が陰茎だと思わせるように歯列の際まで指を抜き、それからまた奥へと埋め込む。逃げ惑う舌は指全体を舐めることとなり、時折突き出そうとする信の舌先が指の形を丁寧になぞりあげ必然的に桓騎の指へ奉仕しているのに信は恐らく気がついていない。
 後穴をならす為の指もそこそこに、信の陰茎にかかっている指を動かし始める。竿を扱くために作った筒状の手のひらで芯の肉茎を数回擦りあげてやる。
「んんっ、……んっ、……っ、んんぅ、……、んぅっ」
 直接的な刺激が強すぎるのか信は呻き声にも近い嬌声を上げ肩を左右に振りながらその身を捩らせた。桓騎は指を雁首に引っ掛け、剥かれている皮全体を使ってぐちゃぐちゃと卑猥な水音を立て扱き上げた。既に鈴口から透明な汁がしっかりとこぼれ、下履きを張り付かせていた先走りのお陰で陰茎に滑りを与えていた。人差し指をそろりと伸ばし、亀頭の切っ先に爪先を立て奥へと侵入を果たそうとする。勿論、この指の太さでは入るはずもないが痛みを伴った快楽は前戯を行っているこの相手にとっては充足に近いと言える代物だろう。
「っあ、! っ、てェって、それっ嫌だっ……、っあぅ、……ふっ、んんんっ……!」
 咥えさせられていた指から唇を離し、立てられた爪の苦痛から逃れようと左右に首を振りながら信は訴える。強すぎた刺激を弱めるために今度は優しくかりかりと数回引っ掻くように痛みを慰めてやり指の腹で円を描き、透明な汁を人差し指の腹に纏わせた。わざとらしく音を立てながら絹糸のように糸をひきながら優しく鈴口を弄んでいく。唇のように動く入り口は絶え間なく先走りを唾液のように吐き出しながら、気持ちよさを訴えている。信は相変わらず否定し、掴んでいた壁の縁を握られず握り拳を作り耐えていた。こちらに抱きつけば相応にしてやるのに、と桓騎は信に声をかけてやることも出来たが、それを選ばせてやったところで再び拒絶をするのがこの男だ。なら耐える姿を存分に眺めている方がよっぽど愉しかった。
 離された指を自分側へと引き戻し臀部にかかっていた襤褸服をめくりあげる。馬に乗り続けている引き締まった健康的な双丘が見える。女の尻の柔らかさとは全く異なった、面白みが全くない箇所ではあるが内は違う。崩れ落ちそうになっている膝と腰を持ち上げさせ、会陰に指を沿わせ秘所を探る。ふっくらとした会陰は開発までには至らないものの、触れば反応をするまではきている。もう少しゆっくりと時間をかければそこで甘く出すことぐらいは出来るかもしれないと桓騎は思いつつ、菊座の窄まりにたどり着いた。皺を一本一本確かめるように泡立った唾液をまとわりつけた指の腹を押し付け、まずは人差し指だけで割り開いていく。ここ最近は趙軍の攻めが極めて峻烈であり、また落城してからすぐに移動を繰り返していたため、この男と言葉を交わすこともままならず久しぶりの行為となったが以外にも信の括約筋は拒絶を見せず、すんなりと指を受け入れていく。他の男に抱かれたのか、それとも。
「ここを使って、一人でしてたのかよ」
 肩に乗せていた顎を横に向け耳元へ流し込んでやると、信は瞬時に身を固くして口を引き結んだ。 
 男ばかりの軍では良くあることだった。自軍では近くの集落を襲わせ、そこに女がいれば発散もかねて女たちを陵辱し精を放ってから殺害をした。後々面倒なことになるぐらいなら、締め上げておいたほうが楽だった。しかし女を襲わない信の軍は各々が処理をする他無く、またこの男もほんの僅かな隙を見て自身を慰めていたのだろう。その慰め方が前だけではなく後孔を使うようになっていたとは流石の桓騎も僅かに瞠目をした。落胆させるどころか桓騎はこの手の内の中にいる男が自分へと堕ち掛かっていると確信する。信が慰めているとしたら陰茎を使い、ただ処理だけをする自慰が桓騎の手によって快楽を追い求める行為になり始めている。そういった意味での肯定でしかなく、桓騎の下半身に血が集まり、肌が瞬時に粟立つ。
 丁寧に解していこうと思っていたが、その余裕が一気になくなり最奥まで指を埋め込んでやった。しこりを掠め、排泄孔の奥まで指の腹でかき回す。内壁は柔らかく、侵入してきた異物を拒むことなく優しく包み込んでくる。
 指を引き一気に穿ちしこりを重点的に擦ってやると引き結ばれた唇はほどけ、息だけで喘ぐ信の背が上下に跳ねた。
「っ……、っは……ぁ、っ……!」
「良いなら声出せ」
 信がまた横に首を振る。どうしても声を出したく無いらしく、頑なに拒む。毎回同じことを言っても毎回拒否をし、最後は否が応でも声を上げさせられているのは信でありならば最初から素直に受け入れればいいものを。桓騎はその言葉を口には決して出さなかった。ぎりぎりまで追い込んで堕ちていく様は、それなりに楽しめている。信の陰茎を緩く弄んでいる桓騎の指は先走りで指の間を汚され余計に滑りがよくなり、少し手早く扱いてやることにした。
「っぅあ、っ、……、やめ、出っからっ……、っ」
 桓騎は信を横目で盗み見ると眉根をぎゅっと詰めまさに限界が近いと訴える面が瞳に映る。菊座から指を引き抜き、肉茎にかけていた指を離す。
 信の背に伸し掛けていた上半身を起こしながらべっとりとまとわりついた先走りは信の腹筋に塗りつけ、手のひらを拭いた。
 白い外套はそのままに既に取り払われていた具足の下に着ていた絹の装束を止めている帯と胡服の紐を解き、軽く反応を見せている桓騎の男根を下履きの脇から取り出した。赤黒く、脈をうち裏筋の筋はしっかりと盛り上がりを見せていたがこれでもまだ完全とは言えない凶悪な性器を信の臀部に一度こすりつけた。
 突然無くなった異物と刺激について信は驚きを隠せない様子で押し当てられた熱を確認しようと肩越しから桓騎の顔を不安げに見る。桓騎は手を伸ばし、信の身体を反転させ、それから肩を押し下げ床へと座らせた。
 信の顔の前にまだ育ちきっていない陰茎を眼前に出してやると、圧倒されたような表情でじっと桓騎自身の顔ではなく筋が浮きだって反り返りそうな肉茎を半ば期待の眼差しで眺めていた。半開きになり乾いた唇を薄い舌で小さく舐め、喉仏が大きく上下する。
「舐めろ」
 解るだろう、とは言わない。命令されることによってこの男はより強固になろうとするがそれが返って素直になったときに甘味を増す。また将になっているが為に、様々な重荷が信にここで断ったら何をされるか分からないという常に綱渡りをしている状態で命を下してやる。絶対に嬉しそうな表情は見せないが身体が嬉しそうにしていた。
 信が口を大きく開け、舌を品無く極限まで出し桓騎の陰茎を口腔いっぱいに迎え入れる。指を入れていた感触とは全く異なり、粘膜全体で包み込まれている感覚はまた膣壁とも腸壁とも違っていた。上顎に突き入れてやると苦しそうな呻きを上げ、それでも食らいつくかのように舌と唾液を絡ませてくる。歯列が時々当たるがそれさえも快楽となり、脳天を刺激する。
「っ……、相変わらず、……ド下手くそだな、はっ、……下僕」
 自由になっていた手をそっと頭頂部に沿わせ、もう片方は後頭部に指を掛ける。短く整髪された黒い髪に指を差し込み、一度撫でてやると睨みをきかせながら顔全体を動かしている信の目が一瞬だけ細められ、そのまま顔を上下させた。
 時折息を詰め、熱くなった吐息を吐き出す。流石に舐められると血が駆け巡り半分ほど反応していた男根もしっかりと芯を持ち始め、信の口腔で育っていった。
「お頭、出してた斥候っすけど」
 四方数里に渡って出していた斥候の一人が戻り、階段を登りきり報告の為に即座に声を発したのを桓騎は聞き取る。自軍の伝令の足音が少し前から聞こえており信には一切伝えず行為を続けさせた。
 桓騎は伝令へ目を向けず、信の頭を持ち口淫をさせ続けながら返事をする。
「、……続けろ」
 どちらに向けた言葉ではなく、自然と突いて出てきた言葉だった。信が人の声に身を硬くし、這わせていた舌を止めていたが桓騎の言葉によりおずおずと再開させる。普段の拙い動きがよりぎこちなくなり、ただ舌で舐められている棒となっている。
 信を叱咤するのは横に置き、桓騎は斥候の報告を受けた。趙軍本体がこの宜安城へ攻め入るべく準備がすすめられているそうだった。夜襲の気配は無く、馬の手入れと明日の強襲の為に兵を休ませているらしい。
「んぐぅ、……っんんぅ、んんんーっ、……!」
 桓騎は信の掴んでいた後頭部を押し喉奥へと陰茎を埋め込むと信がもがき、桓騎の前腿に腕を突っ張らせ必死に奥へ入れ込まないよう拒絶したが、さらに強く押しやった。唾液が溢れ、口周りをだらしなく汚していく。
 今までも軍営の幕舎で女を抱きながら夜襲が行われている報告も受けたことは数が知れない。戦になれば茶飯事である報告も、信を幕舎で抱いているときにはなかった。屋敷で抱いて入るときに来客は何回かあった気がするが、もう昔のことで覚えていない。
「……、分かった」
「あの、お頭。それ、男すか?」
 不意に信を名指しされたように、信の身体が緊張する。反復していた顔を止め、斥候の男に顔が分からないよう背けようとしている。信からみればその声に怯えているようだったが、男からみれば桓騎の身体と外套で隠れてしまい顔は愚か具足も確認できていない。また松明のおかげで明るくなっているが色まで判別出来るほどではなかった。
「だったら、っ……なんだ」
「男も抱くんだなと思っただけす」
「……明日は早ェから、っ、……お前もさっさと寝ろ」
 桓騎は時々息を詰めて言葉を返す。距離がある為、男が桓騎の漏らす吐息には気がついてないようで桓騎からの言葉をそのまま受け取り、その場から立ち去って行った。
 他に出した斥候が同様の時間に戻らないとするならばおそらく既に斬られているかもしれない、と桓騎は明日の見通しをある程度立てた。
「離せ」
「んっ、……斥候が来るなんて聞いてねェ」
「お前んとこも出してんだろ」
「ったりめーだ」
「なら俺がここに居んだから、来ても何らおかしくねェよな?」
 信が口を噤む。それはそうだろう。それぞれの軍の上のものが居る場所に報告は来る。もちろん副官を通す時も間々あるが、選りすぐった直属の騎兵から斥候を出しているので直接言いにくるのは分かりきっていたことだ。その状況を含めて、こちらの予想通りに物事は進んでいた。奇しくも挿入時に見られるという状況を作ってみたかったがそうは行かなかった事に桓騎は低く笑い、頭頂部の髪をひっつかんで信の髪を上に持ちあげ、無理やりに信を立たせた。興味本位で下半身を覗き込んで見やると喉奥を犯された所為か、それとも斥候の男の声を聞いた所為かは分からないが桓騎の手で弄っていた時よりもよほど射精を我慢しているのか先走りの量が多く、信の肉棒をしとどに湿らせている。今も無意識なのか鈴口から白濁が少し入り混じった透明な汁が涙していた。
「しっかり立て」
 震える太腿へ平手を打ち、信の身体を反転させる。再び背を向けられ桓騎は唾液と我慢汁が纏わりついた自身の陰茎の竿を握り、信の菊座へと押し当てる。時間にして僅かにも拘わらず、窄まりは物欲しそうに何度か収縮し桓騎の男根を受け入れようとし始めていた。切っ先を宛てがい、腰に力を入れつつ急性的に入れないよう注意を払いつつ信の腸壁へと埋め込んでいく。桓騎の指で解した肉壁は行為が久々なこともあり異物を排除しようと急激に道が狭くなり、陰茎を強く締め付ける。ここ最近は自分でも慰めていなかったのか、悦びはしているもののあまりの質量に狼狽しているように思えた。
「はっ、……桓騎、痛ェ、っ……、ぃ……、! っ……」
「息吐け、大バカ」
 浅く呼吸をしていた信を宥めるかのように腰に置いていた手を腹へと這わせ、さすってやる。ここまで自身が入ってくるのだと説き伏せるよう数回撫でてやったが、手のひらの暖かさに安堵を覚えたのか下半身から力が抜け、すんなりと奥が拓けた。透かさずその隙を見つけ、一気に桓騎は亀頭を奥に進める。しこりを雁首で引っ掻いてやると背が反り上がり、壁を握りしめる指が丸く内へと入り握り拳を作る。根元まで埋め込み一度ゆっくりと腰を引き、次に最奥まで勢い良く腰を押し込んだ。
「っあ、……!? っ、っぁぅ、……」
 奥まで穿たれた肉茎の衝撃と泣き所を掠められ、声にならない声が信の口から上がる。それに気を良くした桓騎は、数回同じ動きを繰り返し、次第に腰を動かす速度をあげていく。最奥に亀頭が届く度、囲っている壁がない為、地上にいる見張りの兵にまで聞こえそうなほど響いていた。信はそんな音を気にしている余裕はなさそうで、いつもならもう少しあげる声を押し殺しなんとか理性を保ちながら快楽を耐え忍んでいる。腕で支えながら信の腹をもう一度撫でる。先ほどはまだ優しい手付きでさすったが、今は根元まではめている桓騎の男根の位置を分からせるように腹の上を強く押し込んでやると普段当たらない肉壁が当たるのか、大きく腰を跳ね上げさせて身体への悦びを表していた。
「あっ、……かん、っき、っ……んぁ、……っ、は、っあ」
 腸壁を崩すように引いては押しを繰り返す。腰を掴んでいる腕に信の指がかかる。力は入っておらず、捕まるところを求めているのか、それとも腰を掴む手を外して欲しいのかは分かりかねたのでそのままにしておきながら、今度は陰茎を根元まで埋め込み桓騎は逃げられないように押さえつけ、腰を左右に強く回すと信の良い箇所にあったのか、詰めていた息を吐き掛かっていた指に力が入る。
 時折背中越しで自分の名前を呼ばれ、首筋や肩を赤くし汗が滲み出す姿に感情をかき乱される。その所為か息が上がり、額に軽く汗をかき始めた。心根とは真逆に身体は必死に快楽を追い求め、桓騎と動きを合わせるように腰を揺らしていることは自覚しているのだろうか。もう少しで堕ちてきそうなところにいるのに、手には入らないもどかしさが桓騎の征服欲を焚き付ける。
「桓騎っ、……あっ、……なぁ、ってば……っん、ぁ」
 腕を握り、揺さぶられ自由が利かない信の口は途切れ途切れで桓騎に言いたいことがあるらしく肩越しに振り向き、瞳に涙を僅かに滲ませながらこちらへと顔を向けてきた。
「あ?」
「今日、……っあ、……中、に出す、なっ……! 明日、っふ……早ェん、……っぁう」
 振られている腰に目線をやっていた桓騎が僅かに上げ、信との視線が交わり返事を短く返してやると、中に出すなと懇願してきた。言われて素直に従う性分ではなく内に放つ気であったが、明日腹を下し使い物にならないのは多少困り物である。桓騎は一寸思考し、それから腰を持っていた手を両肩にやり桓騎の上身を信の背に体重をかけて顔を耳元へ寄せる。信の背に滲んだ汗が桓騎の緩んだ衣から見える肌へじっとりと湿り気と体温が伝わる。 「今日じゃなかったら、いいのかよ」
「っあ、……ッッ! 違ェっ……、!」
 耳輪に歯を軽くたて、穴に吐息と共に言葉を耳から流し込んでやってから舌で舐めてやると信が背をしならせ肉壁がうねりを上げながら肉茎を容赦なく締め付けてくる。
「何も、違ってねェだろ? っ、……次は溢れるぐらい、注いでっ、やる」
 信は嫌がるように首を左右に振りながら丸めて、しかし桓騎に言われた言葉を想像したのか内腿を大きく震わせる。そろそろ限界が近づいているようで、腸壁が甘く蕩けるように肉竿に絡みつく。自身の先走りを泡立て、腰を押し込む度に信の声があがる。桓騎もそれに無意識に煽られているのか徐々に余裕がない動きへと変わり浅く口で呼吸をしながら陰嚢から吹き上がってくる熱い精を打ちつけようと、必死に信の最奥を穿った。
「っは……出すぞ……っ」
「あっ、かんき、っ、」
 腕を握られていた指を外してやり桓騎が信の手首を掴みより深くまで突き刺さるように手首を自身へと引き寄せ、結合させる。
「ッッ――、あっ、……、ッ、ぅ……っ! ……ッ、っう、っ……」
 先ほどまで突き上げていた箇所とは違う場所に埋め、声にならない声を出しながら身体が震えると直後に信の陰茎から子種が勢いよく吐き出された。それと同時に内壁がこれ以上なく締め付けられ、桓騎も射精を行いそうになったがすぐさま信の腸壁から抜去し、日に焼けていない臀部へと陰茎を押し付け、自分で数回竿をこすりあげる。
「――っ、……はっ……」
 内腿が震え男の象徴から熱が湧き上がり、内側が白く焼き切れる感覚を味わってから桓騎は高みへと昇り精を勢いよく吐き出した。打ちつけるものがない白い種は信の臀部の表皮を汚し、粘度の高い液体はどろりと伝いわたって床へと落ちる。数回に渡り放出される精を最後の最後まで絞りとるように丁寧に扱き、最後に根元からこれ以上ないぐらいゆっくりと手を逆手にしながら漏らすことなく白濁を出した。
 速くなっていた鼓動を抑えるために、息を一度大きく吐き出す。腕の支えを失った信の身体は床へとへたり込み、指先を壁の溝に食い込ませてなんとか立ち上がろうとしているみたいだが、子種を放った所為で下半身に力が入らず背を丸めてその余韻と脱力感を味合わされているようだった。未だに内に埋め込まれている感覚があるようで時折臀部の筋が上下しているのが視界の端に見える。
 乱れていた装束を直し、床に落ちていた紐や帯を拾い上げ格好を整えた。一刻ほどしかない短い交接は欲を吐き出す為でしかなく、しかも一方的な事を桓騎は十二分に理解していた。仲間という理解し難い絆を大事にしそれを逆手に取って脅しながら行っているこの行為になんの意味があるのか。
 桓騎の胸中は霧掛かっているような、自身の感情が見えてこないという気持ちに陥っていた。今までなら適当に抱き、適当にあしらえば良かったが今回だけはほんの少しだがどこかが違う。
 感情のない双眸で信を見下ろす。信は息がようやく整ってきたのか膝に力を入れ壁をよろけながらも伝って立ち上がり、捲られていた襤褸服を下ろして身なりを整え始めた。その様子を胡床に腰を掛け、静かに眺めた。
「……ん、だよ」
「トロ臭ェなと思ってよ」
 事実だった。信の体力は飛信隊の誰よりもあると思っているが快楽に弱いのか事後はいつまでも起き上がってこず寝台に転がしているのが常だった。今回は寝台もなければ横にも慣れない場所で行い、言うことを聞かない身体に叱咤しながら自軍の幕舎に戻る準備をしている。
 ずり下がっていた胡服に手を掛け、紐を結んでいる信が先ほどまで内壁に埋め込まれていた男根の感覚を思い出すのか時折小さく肩が震え、それが収まると再び着替え始めるを繰り返す。それ故に時間がかかっている様子だった。
 桓騎は立ち上がり信の目の前でしゃがみこみ、腕を伸ばし俯けていた顔の顎に指をかける。涙が伝った跡が見え、未だ快楽に慣れていないことが一目見て分かる。
「……着替えらんねェだろ」
 信の眼とかち合い桓騎と視線が交差し、それから信がすぐに視線を落としていそいそと着替え始めた。眠れる時に眠っておかないと、いざという時に使い物にならない。桓騎も日頃より自覚している。ただ珍しいものを眺めようとしていたはずなのに、何故か目が離せなくなる。目の前にいる男の発せられる何らかの光が、桓騎は時折酷く眩く思えた。顎を少し高く上げさせ上向きにさせる。呼吸が浅くなり苦しいのか信が眉を寄せながら桓騎の手を払いのけようと腕に手をかけたその時、桓騎は顔を近づけ信の唇に己の唇を重ね合わせた。いささか開かれた薄い唇に押し当て、少し乾燥した柔らかな感触を味わう。食むように下唇を小さく噛み、上唇を優しく吸い上げる。顔の角度を何度も変え、貪るように信の唇を味わった。
 桓騎は未だかつてこの男と口付けをしたことがなかった。必要だと感じておらず、当然信もねだってくることが無かった。娼婦と交接する時や、前に抱いた下女達は口付けすることにより女が興奮し蜜をより垂らして腰を振るからであり、桓騎自身が気持ち良いと思ってしていることでは無かった。
 桓騎は信の顔が魅力的だとこれっぽっちも思わないが、どうしようもなく唇を重ねたいという焦燥感に駆られ衝動にも近い感情で、現在も尚ただひたすらに熱を分け与えている。
「ふっ、……んんっ、……ッ、……んーッ、……っ!」
 唇が離れる度に空気を欲し、時折呻きのような声をあげて掴まる物がない信の手が彷徨いながら桓騎の手首を強く握る。唾液が口端からほんの少しでもこぼれ落ちそうになると舌で掬いあげ、口内に戻す。そのまま開けられたら口腔へと舌を忍ばせ、信の舌を縦横に絡め取っていく。逃げようとする舌脇を舐め、上顎の裏をなぞり頬肉の裏側の粘膜を丹念に舐めあげる。ぬるりとした感触に誘われ更に舌根まで埋めるように奥へと深く潜り込むと、信の舌の根元を丁寧にさすり、腸壁と同じように舌先で溝をなぞりながら入口まで返ってくる。内に入り込んでいた舌を一度外に出し、今度は極めて丁寧に優しく絆してやるようにちろちろと小さく舌先を舐めあげた。
「舌、出せ」
 熱くなった吐息と共に小さく囁くように命を出すと、信が遠慮がちに舌を突き出す。薄く柔らかい舌を桓騎は唇を軽くすぼめて舌先から包み込むように吸い上げてやると、蛙が鳴くような情けない声が信からあがる。上がった声に配慮せず、口腔へと招き入れ丸められた舌を己の舌で満遍なく嬲ってやる。信の舌から唇を離し、閉じられている瞼をじっと注視しているといつまでも入ってこない舌に違和を感じたのか、伏せられていた短い睫がゆっくりとあがり始めた。
 桓騎は視線を絡めさせ、もう一度信の唇に自分の唇を重ね合わせ、ゆっくりとした動作で顔を離して言った。唇の間には絹糸のように細くお互いの唾液が混じり合った糸が引き、次第に間に垂れ落ちる。一度交接を行ったのにも拘わらず、信の頬は上気し再び熱を帯び始めているのがまざまざと分かったが、明日は早い。
 桓騎は立ち上がり明日攻め入る予定の方角へと顔を向けた。信の早くなっている呼吸だけが耳へと届く。
「んだよ突然……」
 呟かれた信の言葉に反応はしなかった。桓騎自身も思ってもいない行動をとり、言葉を返したところで具足を付け戻している男に言っても素直には受け取らないだろう。そういう関係を築き上げてきたのだから仕方ないことだと桓騎は思った。腕を組み、明けていない空をみると大小様々な星が瞬き、穏やかな空気が頬を撫でる。信がどうやら具足を付け終わったようで、いつも最後に背負っている剣を桓騎の足元へ拾い上げようと背中越しにこちらへくる足音が聞こえてきた。
 信が立ち止まり、腰をかがめて横になっていた宝剣の柄を掴む。
「なぁ」
「……あ?」
 向こうから話しかけてこられ、桓騎は顔を信へと向け目を細めながら腰をかがめている信の旋毛を見やる。短く硬く、あちこちにはねながらも黒く生え揃った髪が眼に自然と入ってきた。
「く、……口吸い、なんて、一回もしたことねェだろ」
「かもな」
「んで……すんだよ。こんな時に」
 普段行わない接吻、そしてその言葉に戸惑いながらも真正面から信が問いを投げかけてくる。こういう性格が眩しく思えた。分からないものを分からないと片付けてしまった方がどれだけ楽が、この目の前の男はおそらく知らないだろう。曲がったことが嫌い、道理から外れた事はしない。桓騎は信の真っ直ぐ過ぎる性根を時折へし折りたくなる。実際に手を出してみてもその性分は折れるどころか曲がることなく、どこまでも真っ直ぐに延びていくだけだった。
 細めた瞼を閉じ、顔を戻す。答えが出ていない問いに対して答えを求め対話をするほどの興味が桓騎には無かった。信が剣を拾い上げ、紐をしっかりと肩にかけてから桓騎と対峙する。口を開こうとしない自身へ辛抱強く答えを待ち続けているようだった。どれだけ待っても出せない。なにせ桓騎自身が口付けの意図が見えてこないから答えようにも無かった。
「お前の支度がくそ遅ェからだろ、下僕」
「おそっ、遅くねェしテメェが俺の尻の……」
「尻の、なんだ?」
「聞き返すなっ!」
 桓騎が遅いと思ったのは事実だった。早くしろと言おうとしていたことも否定はしない。顎に手をかけてからが桓騎の普段の意識と乖離していたように思えたが、そこまで言ったところで理解は得られないだろう。敢えて信を挑発するような言葉を選び、桓騎は問いかけに答えを出してやる。
 信は買い言葉と受け取ったのか食ってかかろうとしたものの、先ほどまでの交接を言葉にしようとして語尾を詰まらせた。軍は男ばかりの筈で女の話題もよくあがるが信の態度はいつまでも初なもので、頑なに性を匂わす言葉を口にしない。余程口に出すのが嫌らしい。桓騎は喉の奥で低く笑った。
「さっさと行け。明日は存分に働いてもらうからな」
「言われなくても、李牧を絶対に討つ」
「だといいが」
 正直なところ、未だかつて無いほど勝利へと道筋が見えていない。片手をあげこの場から立ち去れと小さく手を払い、信がここから去るよう促すと床を踏む音が聞こえた。数歩歩いた後に音が止まる。息を吸う音が背中から聞こえてきた。
「……お前さ、……」
 小さな声で、名前ではなく敬いが含まれていない呼ばれ方をされ振り向こうと外套を翻そうとするが、それよりもはやく信の言葉が飛び出す。
「やっぱいい。早く寝ろよな」
 じゃ、と小さく言葉を切って信はその場を後にした。
 一人きりになり改めて明日の盤上を思索する。幾つか思いつくものの、全てにおいて勝ち筋が見えてこない。ただ自身ではなく他の者が戦況を切り開くことにより、制勝が見えてくることもあるのが戦の面白いところだと桓騎は常々味わっている。
 それ以上の熟考はやめ胡床に腰を掛け、薄く開けていた瞼を静かに閉じ襲ってくる波に全てを委ねた。夜明け前には出て行かなければならない。明日の戦局がどうあろうとも、兵を動かし趙を滅ぼすまでだった。瞼の裏は暗く、星は既に見えていない。
 それでも空を流れていく星の様子が一筋だけ、桓騎の脳裡に描かれた。