※暴力描写注意



信を無理やりにでも連れてくること数回。さっさと慣れろと思う反面、抵抗をされると加虐心が煽られ殴る蹴る等の暴行を加えることが多々ある。叩いても光を失わない反抗的な瞳に、苛立ちが募り手と足を使って鳩尾や脇腹を蹴り上げ、苦しそうな声を上げさせると気持ちがすっきりとする。
ある程度酷くしても戦に出て縦横無尽に駆け回っているだけあってそれなりに辛抱強く、また根を上げることが決してなかった。その鋭く輝きを失いそうにない瞳に酷く腹が立った。
頭目には遊んでいいとだけ言われている。遊ぶということは死なせなかったら何をしても良いということらしく、拷問とまではいかないものの暴行をひたすら娯楽とした。今日はどの位もつか、と仲間を呼び寄せ一発ずつ入れ賭けをし、口内が切れ血を吐き出すまでを争ったり、痣が出来るまで殴ったりもした。大抵賭けは外し、その度に新人を連れてこさせ大金をかけさせる。巻き上げるのは大方古株の兵だった。
頭目の用事が終わると自ら赴き、様子を見にくる。男の前にしゃがみこみ、値踏みをするように顎に指をかけ左右に顔を向かせながら満足そうに目を弓のように細め、それから指を離して脇に抱えるように引きずりながら自分の室へと運んでいく。頭目が笑う姿は指折り数えるぐらいしかなく、あんなに悦びを全面にだす頭目に最初は驚いた。新しい玩具が手には入ったような、そんな笑い方だった。
次第に男を呼びつける回数も増えていき、ならば自分たちも痛めつける回数が増えると思いきや、雷土さんに呼ばれ仲間たちと並んで話を聞いた。
「お頭からの言伝で、あいつにこれからも手を出してもいい」
「ならなんで俺たちを呼んだんスか」
兵の一人が雷土さんに抗議をする。そうだそうだとみな口々に言い、不服を表すために睨みを聞かせると雷土さんが凄みを聞かせ低い声で言った。
「お頭が、あいつを壊していいのは俺だけだっつったんだ。文句があんなら伝えてやる」
帯剣していた柄をつかみ、引き抜いて最初に言った兵の喉元になんの躊躇いもなく剣先を突き立てる。つ、と血が喉仏を伝い、鎖骨の溝へと垂れ落ちてくる。頭目の言うことは絶対だと言い聞かせるように、剣先をゆっくりと深く指していく。声にならない悲鳴が呼び出された堂に響いたかと思ったら、兵はへなへなとその場にへたり込み無様にも尿を垂れ流していた。尿特有の匂いが自分たちの鼻についたが、一歩間違えればへたっている者と同じようになっていたと思うと背筋に寒気が走る。雷土さんは興味がなくなったようで剣を鞘におさめ、木で作られた腰掛けに巨体を下ろし、自分たちを静かに眺めた。
「お頭の言うことは絶対だ。従えねェやつはぶっ殺す」
脅しでも何でもなくこれがこの軍の日常なんだと、今更ながら悟った。頭目の命には必ず従う。心に刻みつけて解散を言い渡された。漏らしたやつは他の奴らが数人かがりで支えて乾ききっていない尿を足裏で引きずりながら営舎へと帰らされていく。あの玩具は頭目のお気に入りだとわかったのは言い渡された数日後だった。
「遊んだ感想はどうだった」
桓騎軍に入って数ヶ月しか経っておらず、直接声を掛けられるとは思っていなかったので心底驚いたか目を丸くし、いくらか背が高い頭目を見上げた。男でも見惚れるほどの彫りがあり整った顔つきにまじまじと眺めていると鳩尾を膝で蹴り上げられ、その場に足をつき咳き込んだ。
「聞いてんのか? あいつと遊んだ感想を言えよ」
「あの男は頑丈で、かなり酷くしても眼光を失わないです」
「だろうな」
顎をしゃくり瞳に感情は伴わないものの、口端は僅かに上がっており気分は良さそうにしている。背を翻し、己の幕舎に帰ろうとする後ろ姿へ控えめに声を掛けてみた。答えが返ってくるかは五分五分だ。
「あの、お頭」
「なんだ」
「男ですが、今後も」
「ああ、遊んでいいぜ。ただし」
肩越しで振り返りあの時と同じく瞼を弓のように細め笑う。表情を作るためにあげられた頬がこの上なく嬉しそうに見える。
「壊すのは、俺だ」
それだけ伝えると絹で作られているであろう外套を靡かせてその場を去った。汗がどっと吹き出す。こんな緊張をするならあの男には金輪際手を出さないで置こうと強く誓った。
あれは、お頭専用のおもちゃだ。


遊んでも良いけど壊していいのは自分だけって話