ラクナツへのお題【「僕を愛してくれるなら」/こんなに好きになる筈じゃなかったんだけどな。/僕を忘れられないように、傷付けてあげる。】 http://shindanmaker.com/287899



ラクサスに勝負を挑み、負ける。
と、ココまではよくある話なんだけど、過去に一度半殺しまで行ったことがある。あの時はラクサスの虫の居所が悪くて、オレの言葉は売り言葉、そしてその特典は買い言葉。となれば派手にやるしかなかった。勿論今みたく力がないガキの時だったので、半殺しは否めなかった。というより、殺されなかっただけまし、とも言える。途中でギルドの皆が止めに入ってくれたから良かったものの、もし止められなかったらオレは今頃きっとイグニールを天国で待ちぼうけている。そんなの御免被るが。
その後オレは驚異的な回復力をみせ、数日後には元気になったが、ある一カ所だけ傷痕が残った。腰の、裏側に小さく赤く。ガキの頃着いたのに今でも消えない傷痕。鏡でみる度に思い出す。そういや、そんな事があったなぁ、程度だけど。

そんな中、偶々ラクサスと大浴場の脱衣場で一緒になった。オレは出る時、ラクサスは入る時。ぱったりと出合い思わず、お、おうっ、とどもった挨拶になってしまった。特に疚しい事は無いのに。
ラクサスも小さな声でおう、と答える。オレと一人分ぐらいあけた距離で衣類を脱ぎだした。
いつ見てもすっげー身体。いいよな、恵まれた身体っていうのはきっとラクサスやガジルの異を言うんだろう。正直羨ましく思う。自分も決して筋肉が無いの方では無いのに、やはりそれ以上を望むのは男としての本望だ。

「何、ジロジロみてんだよ。気色悪ぃ」
「うっせ」

素っ裸だった事を思い出して、ラクサスの身体から目を離しいそいそと着替え出す。
風呂上がりは暑いけど、身体を滑るように服が着られるので気持ちいい。ルーシィがいつも風呂に入っている気持ちがなんとなく分かった。

「…おい」
「なんだよ」
「その傷…、もしかしてオレがつけたやつか」
「は?」

その傷と言うのは、さっき思い出してたこの腰の傷だろうか。よく、見えたな。グレイにもつっこまれた事無いのに。
思わず感心してしまった。

「あー、これか?覚えてんのかよラクサス」
「…忘れるわけねぇよ」

忘れられる、訳がない。そうラクサスが呟いた。何を突然言い出すのかと思ったら。ラクサスは気にしているのだろうか。オレの着替えていた手がパタリと止まりラクサスを見やる。ラクサスもラクサスで着替えを止めてまでオレの傷をじっと眺めている。
なんだよ、ラクサスだってジロジロ気持ち悪ぃな。同罪だ、同罪。

「ラクサス、」
「あれから」
「?」
「ずっと、あった、か。消えてねぇ、そうか」

くつくつと、ラクサスが当然喉の奥で笑い出す。今日のラクサスはなんか変だ。いつものぶっきらぼうで、オレになんか優しくないラクサスじゃない。今日はやけに絡んでくるし、笑うし。
笑われて気持ちいいものでも無かったので、止めていた手を進めた。オレの眉間にはおそらく不機嫌な縦皺が入っている。
なんなんだ一体。ラクサスが何を考えてるか、オレの脳みそじゃ全く分からない。それが余計に腹を立たせる材料になった。なんだよ。

「オレ、出る」
「ナツ」
「なんなんだよ!さっきから!」
「その傷、一生つけてろ」
「はぁ?」

何言ってんだこいつ。いよいよラクサスの頭もおかしくなったか。傷を一生付けてろ、ってそもそも意味がおかしくないか。
オレは持ってきた風呂桶一式を手にしてラクサスの顔なんて無視して、とっとと脱衣場を後にした。
暫く、ラクサスの顔をみたくなかった。からかって楽しむタイプの性格を分かっていたつもりだったのに。腹立たしい。
消したくても消えない傷痕は、一生残るもんなのにいちいちうるせぇ、と独り言を呟いた。
ラクサスなんて、大嫌いだ。今も昔も、これからも。



消せない傷の思い出