※オリジナル設定があります
※単行本未収録のネタバレがあります



「スティングもケーキ食うんだな」
「はぁ?何いってんのナツさん」

デート中、寄り道したオレに到底似合わないちょっと小洒落たカフェでスティングと一緒にケーキセットを頼んだ。オレはショートケーキ、ってルーシィがいつも頼んでるやつしか名前が分からなかったそれと、スティングは記事がくるくる巻かれていて、中にフルーツが生クリームと一緒に入ってるケーキを頼んでた。しかも紅茶と一緒に。さすがイケメン。やっぱ飲み物が違う。
オレは紅茶もコーヒーも苦手だったので、オレンジジュースにした。甘いものに甘いもの。オレの勝手だ。

「てっきり甘いもん、嫌いだと思ってた」
「あー、ナツさんと一緒に居ると食べてないかも」

ショートケーキの苺にフォークを刺して口に運ぶ。苺の甘酸っぱさが口いっぱいに広がった。
それに対してスティングのケーキは食べにくそう。途中でケーキが倒れるんじゃないのか。なんて、どうでも良いことを考えながら苺を咀嚼した。うーん、酸っぱい。

「甘いもんね、ギルドだと良く食べるけど」
「へぇ」
「お嬢がさ、料理得意で」
「お嬢、おじょー、おじょう、…あ、ミネルバか?」
「うん、クッキー良く食べてた」

あのミネルバが料理が得意とは意外だった。どちらかと言えば料理には興味無さそうで、作らなさそうな見た目なのに、人は意外性があるとは言ったものだ。
ケーキ本体にフォークをかけて真ん中をぶったぎる。ルーシィが居れば行儀が悪いわよ、と言われるのは目に見える食べ方だったけど、今の相手はルーシィじゃなくて、恋人、だ。
スティングのケーキはいつの間にか皿に倒れていた。いつ、倒れたんだろう。スティングのケーキもそうだけど、スポンジがフワフワしていて、スティングがフォークをたてる度、美味しそうに見えた。勿論、オレの食べてるショートケーキも美味しいけどな。そんなに甘くなくて、生クリームもしっとりしていて美味しい。

「何ナツさん。オレの、食べたいの?」
「え」
「ナツさん、そんな顔してるよ」

顔を上げると、ニッコリ微笑んでフォークでケーキを指しているスティングがいた。いつの間にか、物欲しそうな顔をしていたのかもしれない。確かに食べたい、と聞かれたら食べたい気がする。そっちも美味しそうに見えるのは本当のことだし。

「はい、あーん」

返事をする前に、すでにケーキはオレの目の前に、スティングのフォークに刺さって差し出された。
あーん、て。こんな所で、バカか、なんて制止出来るはずもなくオレは雛鳥みたいに口をあけてケーキを食わされた。恥ずかしい。けど、美味しい。

「ナツさんも、勿論してくれるよね?」
「ばっ…!」

それは流石に恥ずかしく、ガタンと大きな音を立てて立ち上がった。すると、流石にこれはまずかったのか周りの客がオレたちの方を凝視してくる。やばい。さっきのは見られていないか心配。
急いでジュースでケーキをかき込み席を後にする。スティングもオレに釣られて急いで食べ終わると、速攻会計をして、店を後にした。
もうちょっとゆっくり食べたかったんだけど、仕方ない。自分で引き起こしてしまった事に肩を竦める。ほとぼりが冷めた頃に、今度はギルドの奴らと来たい。

「あーあ、ナツさんにあーんてしてもらえなかった」
「お前なぁ、あんなところで止めろよ」
「なら、家ならいいの?」

期待に満ちた目で見られる。そんな瞳を向けられて嫌だ、なんて言えるほどオレは冷たくない。
はぁ、と大袈裟なぐらいため息をついて一呼吸置いてから、宣言した。

「今度な!」
「やっりー、期待してるよナツさん」



甘いのは君だけ