スティングと付き合い始めたのは一週間前。オレに凄くなついてくるから邪険にも出来ず、つきあう羽目になってしまった。
そもそも男同士なわけで、付き合うも何もあったもんじゃないと言ったら、あいつは気にしなくても大丈夫、と笑顔で言われてしまい、オレから何も言い返せなくなってしまったのだった。だって、あいつすげーうれしそうに笑いながら言うんだぜ?文句なんか飲み込んじまう。
恐らくそういうところをつけ込まれたのね、とルーシィは言ってたけど、そういうところとはどう言うところなのかはオレは分からない。
と、ぼんやり思い出していたら、スティングに顔をのぞき込まれていたのに今気がついた。
「ナツさん?」
綺麗に整えられた眉毛が眉間に寄っている。そういえばコイツはモテるんじゃないか、とルーシィの鍵から勝手に出てきたロキが言っていた。興味があるの?とルーシィに尋ねられると、恋敵は少ない方がいいからね、と返していた。恋敵ってなんだ?
「どうかした?」
「あ、なんでもない」
軽く頭を振って切り替えをする。スティングも顔を上げてふぅんと興味をなくした返事をする。
隣に並んでいるのでスティングを若干見上げる形になったオレはスティングをチラリと見上げた。少し高めの身長、整った顔立ち。何でオレと付き合ったんだろう。そりゃあ好き好きとずっと言われ続けてきているが、女の方から言い寄ってきそうな容姿なのになんでオレだったんだろう。
付き合うことになった、つまり告白された時にそれは憧れじゃないのかとしっかり聞いたが答えは憧れだけならこんな事しませんよと笑い、抱き締められた。
あいつの着ている服に付いているフワフワがくすぐったかったのは思い出せたけど、その後に何か言っていた気がするけど思い出せない。
「ねーナツさんてば」
「え、どした?」
膨れっ面になっていたスティングに今更気がついた。
「オレの話聞いてた?」
返事はしないで首だけを横に振る。
するとスティングはオレの手首を握りしめ、大股で急ぎ足になった。状況が飲み込めないオレはされるがままになっている。しかも、手首を握っている力がハンパなく強い。
痛いって、スティング。オレはかを顰めながらスティングなと共に続く。
大通りを歩いていたオレ達は人通りがない路地へと迷いこんでいく。
「ナツさん」
行き止まりに差し掛かり、スティングが立ち止まった。オレの名前を呼んで後ろに居るオレに向き直る。スティングは先程とは打って変わって、眉端を下げている。オレも喜怒哀楽が激しいほうと、エルザに言われ続けてるけど、コイツも同じぐらい激しいんじゃないかと思った。
「デートつまんない?」
「デートなのかこれ」
デートなんてことをしたことがないオレにとって、さっきまでしていたこと=デートとは結びつかなく、思わず首を傾げてしまった。
スティングは苦笑いをして、俺の頭を撫でてくる。折角朝セットしたのに。
「ナツさんらしい」
「何がだよ」
「デートだって気がつかないところ」
頭を撫でていた手が下ろされて今度は背中に回されて、オレの身体ごと抱き込まれた。一週間ぶり、二回目。その時と同じく、フワフワが俺の顔をくすぐる。
「あーナツさん、ナツさん」
ぎゅう、と強く抱き締められる。スティングはオレのマフラーに顔を埋めている。オレはどうしていいか解らず、スティングの服の端をおずおずと掴んだ。
「ナツさん好き」
「あのさ、その事なんだけどよ」
「ん?」
「お前、オレでいいのか?」
疑問に思ってたことを口に出す。すると、スティングは更に力を強めて、抱きしめ返してきた。
「ナツさんじゃないといけないんです」
「そーなのか」
「そーなんです」
「女が嫌いなのか?」
「ナツさんには適わない、ってこれ二回目ですよ」
告白された時に言ってたのはこれか。スティングは苦笑しながらオレに指摘した。
よくわからないけど、コイツはどんな女よりオレが好きで仕方がないということは伝わってくる。
それでいいのか、と思ったけど多分コイツの事だからそれで良いのだと思う。いや、オレは納得してないけど。でも、好かれるのは悪くないしオレもコイツのことは嫌いじゃないからまあ、いっかな。
「スティング」
「ん?」
マフラーに顔をグリグリ押しつけているスティングに声を掛ける。
「オレ、お前のこと嫌いじゃねーから」
「うん?」
「その、好きになるまで待ってて…ってうわっ?!」
「もーナツさんっ!それ殺し文句!」
緩みかけていた腕をまた正すかのように力強く抱きしめられて、思わずオレは笑ってしまった。
これからよろしくな、スティング。
懐かれるのは嫌いじゃない