妖精の尻尾はとても仲がいい。仲間を大切にするギルド、ということは痛いぐらいに知っているし、オレもそれを目指している。それを教えてくれたのは他でもない、ナツさん。だから、オレはナツさんをとても尊敬している。
が、ある一点を除いて。
先日、クエストの帰りにたまたま、本当にたまたまナツさんとグレイさんに会って、昼食がまだだったから一緒に食べた。ナツさんはライスのランチ、オレとグレイさんはパスタのランチを選んだ。
四人掛けのテーブルに三人が通されて、ナツさんの隣にグレイさん、ナツさんの向かいにオレが座り話しが弾む。どんなクエストだったんだー、とか、ナツさんたちもクエストの帰りだーとか。そういえば今日は二人だけ、という珍しくないような珍しいような組み合わせで、ルーシィさんたちは、と尋ねたら女子にしかできないクエストをしてくる、と言われたそうだ。
ナツさんはなんだろ、と頭を傾げていたが店に入る途中、ケーキバイキングのビラを配っていたので大方それではないか、とオレは予想したが事実は分からないし、どうでもいい。憧れのナツさんと話しができればそれでいい。
昼食がそれぞれに運ばれてきて、それぞれ食事を始める。この店には何度かレクターと一緒に来たことがあるので、味は知っているし気に入っていた。だから、昼食に誘ってみた。
ナツさんもグレイさんも舌鼓を打つ。お気に召したようで、オレも鼻が高い。と、いってもこの場所を知っていただけだけど。
時折話しをしながら食は進んでいく。二人とも相当腹が減っていたのか、進みがずいぶんと早い。かというオレも勿論腹が減っていたので、すいすいとフォークが進むわけで。
と、皿から視線をあげるとナツさんが口端に米粒をつけているのが見えた。
子供かよ、と思わず笑ってしまった。その笑い声に気がついたのか、ナツさんはどうかしたか?と声を掛けてくれる。そこでかかさずオレが、ナツさんに米粒、ついてますよと指で左の口端を指そうとしたその時だった。

「ナツ、ついてる」
「え、」
「!」

グレイさんがオレの指摘より先に右手の人差し指で米粒を指先にくっつけ取ったかと思うと、それを如何にもいつもやってます、風に口へと運ぶ。
その場面を目撃してしまったオレは眼をひんむいて、感嘆符しか出てこなかった。
いやいや、おかしいでしょ。それ。ナツさんにおかしい、なんていうのもおこがましいような気がするが、やはりおかしいものはおかしい。

「え、あ?え、?」
「おー、グレイさんきゅ」
「おー、気にすんな」

なんだこのやりとり。おかしくないか?いつもやってます、風ではなくいつもやってるから、おかしくないよね風で訂正お願いします。なにこれ。なんだこのやりとり。これ、二回目だ。
そんな事を気にしている余裕がまったく無い放心状態のオレを、ようやく現実世界に引き戻してあわててナツさんとグレイさんに尋ねた。

「いやいやいやいや、おかしいでしょ?!おかしいよね?!え、何?つきあってんの?!」
「はぁ?何言ってんだスティング。熱でもあんのか?」
「ないけど!ナツさん、いや、それおかしいって」
「そもそもつき合うってどこに?ここにか?」
「いや、そうじゃなくって」

話しが全く進まない上に、ナツさんは何か誤解しているようだった。付き合うっていうのは、そもそも恋人同士ではないのか。にして、少し反応としてはおかしいし、もし付き合っているとしたならば、ナツさんはおそらく屈託のない笑顔をオレに向けて勢いよく答えてくれたであろう。
しかし、答えになっていない答えを話されてもオレが分かるわけではないし、正解がそもそも違うのでやはり付き合ってはいないのだろうか。
いやいやいや、だからってあれはない。あるか、ないかでいったら、ない。
と、そこで漸くグレイさんが口を開いた。

「スティング」
「はい?」
「オレたち付き合ってねぇけど。そもそもオレがこのクソ炎と付き合うわけねぇ」
「誰がクソ炎だ!!表でろグレイ!!今日こそ決着つけてやる!」
「上等だ、コラ」

オレの聞きたかった答えはグレイさんが全部答えてくれた。が、腑に落ちないのは何故だろう。
会計もそこそこにナツさんとグレイさんはさっさと表にでて、喧嘩をおっぱじめてしまった。府に落ちない理由も聴きたかったのだが、これだと聞くに聞けない。
はぁ、と肩を落としていると後ろから声を掛けられた。

「あっ、セイバーの…スティング?」
「こんにちはスティングさん」
「シャルルぅ! ナツとグレイ喧嘩してるけど!」
「まーた、喧嘩してるの? 懲りないわねぇ」
「あ、ルーシィさんたち、ちわっす」

後ろを振り向くと、そこにはルーシィさんと、エルザさん、ウェンディ、そしてエクシード二匹が立っていた。エルザさんの手にはやっぱりというか、ケーキバイキングのビラが持たれていたので女子はバイキングクエストをこなしていたんだろう。
三人とも、満足げな顔をしているのは気のせいではない。

「ケーキ美味しかったぞ、スティング」
「あそこ、有名なんすよね。オレも、あ」
「どうかしたか?」
「あの、さっきグレイさんが」

ケーキの話に持って行かれそうになるのをなんとかくい止めて、オレがさっき見た驚愕のワンシーンを、身振り手振りも併せて話す。
一通り話し終わった所で、三人と二匹は顔をあわせて、頷いた。おそらく、これは心当たりがある、ということか。

「あー、みたの?あれ、驚くわよねぇ…」
「アイツらはいつもああだぞ」
「いつも?!」
「はい、私も見たときびっくりしてルーシィさんに聞いたんですけど」
「あれで付き合ってないっていうから不思議よねぇ」
「ちっちゃい時はそんなことなかったけど」
「そうなのか? ハッピー」
「あいっ、オイラ、ナツとずっと一緒だけど、割と最近な気がする」
「お互い、天然だと苦労するわねェ…」

最後は白いエクシードに慰められたが、付き合っていないのにあれか…世の中って広い。
もしかしたら、と思う。グレイさんはひょっとしてナツさんの事が好きなんじゃないかと。さっきのクソ炎はあくまでも照れ隠しなんじゃないかと。ナツさんはその事に全く気がついていなくて、付き合っていないと思っているのでは。と、考えたがグレイさんも付き合っていないと言っていた。
じゃああれは。やっぱり二人とも、何の疑いも持たずにやっているという事だろうか。恐ろしい。そんなことがあっていいのだろうか。
いいんだろうなぁ。妖精の尻尾だから、何でもありなんだろう。何でも、の類が少しおかしい気もするが。

「スティング、何?ショックだったの?」
「…まぁ、色々」

憧れのナツさんが、あんなにグレイさんに懐いているってことも割とショックだったが、そんなことよりあれを平然と人前でやってのける二人に、カルチャーショックというか、どん引きというか。どん引きではないが、やはりショックはショックだ。
ナツさんのご飯粒、おれがさっさと食べればよかったんじゃないのか、とあの時一瞬気の迷いがでたのは一生口に出さないでおく。よけいややこしくなりそうだ。
妖精の尻尾は仲が良い。男女共に、クエストを供にする。全く悪いことではない。けど、やっぱり何をどう考えてもグレイさんとナツさんはおかしい。あれで付き合っていないのだから、やっぱりおかしい。
未だに殴り合っている二人にルーシィさんが帰るわよーと、声をかけている。聞こえているかどうかは分からないが、喧嘩するほど仲がいいということはこう言うことを言うのか、と未だに納得できない脳内で無理矢理言い聞かせることにした。
あ、ガジルさんとこういう仲じゃなくて良かった、と心底安堵したのは言うまでもない。
オレの悪友が何をしでかすか、分からないのでね。


天然×天然=周りが大変